洗剤成分の環境影響は最終的には生態リスクでみる
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洗剤が水に溶けて汚れを落とすという優れた機能を持ち、それを使ううえで排水をともなう以上、水環境との深い関わりは避けられません。洗剤を使えばその排水が流れ出して、水環境に悪い影響を与えるのではないか…。
そういった危惧を、おもちの方も多いことでしょう。
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■ 生活排水の内訳を知る |
かつては、水質汚染の原因は工業排水が主と考えられてきた時代もありましたが、工業排水の対策が進み、現在では有機汚濁の原因の70%が、一般家庭からの生活排水とされています。生活排水が環境を汚染するのは、事実でしょう。しかし生活排水に含まれるのは、洗剤だけではありません。
家庭からの生活排水の内訳をみてみましょう。環境省によると、使う水の量では確かに洗濯などが多く約35%、トイレ25%、台所とお風呂が各20%程度となります。しかし排水に含まれる汚染物質の量でみると、最も多いのは、台所からの食べ物や油を含んだ排水で約40%、次いでトイレ30%、お風呂が20%で、洗濯などは10%程度とされています。
各家庭から出た生活排水は、下水道のある地域ではひとつの下水道管に流れていき、下水処理場(終末処理場)に集められます。そこで排水の汚れを沈殿させてバッキ処理などをし、水をきれいにしたうえで海や川に戻しているので、下水道が整備された地域では、汚染の心配はないのです。
日本の下水道の普及率は、全国平均で73.7%(2010年)で、他の先進国に比べればさほど自慢できる数字ではありません。とはいえ、山国の日本では、全国くまなく下水道網を敷くことはかえって効率が悪くなります。そのような地域では、合併処理浄化槽の普及などが進められています。つまり、生活排水が環境に影響を与えるとすれば、それは下水も合併処理もないまま排出される場合、ということになります。
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■ 富栄養化問題の原因と波及 |
自然は自浄作用をもっています。たとえ汚染物質が排出されたとしても、河川や湖沼といった環境中では微生物が有機物を分解し無機物に変える「生分解」という作用が働きます。
もちろん、だからといって垂れ流しの容認はできません。人口増加や産業集中などにより、リン・窒素・炭素などの栄養分を過剰に含んだ汚水が、湖沼や湾などの閉鎖水域に流入すると、水環境のバランスが崩れて自然の自浄作用は機能しなくなります。これがいわゆる「富栄養化現象」で、それが引き起こす水生生物への影響や赤潮の発生被害は、重要な水環境問題のひとつです。
1970年代の琵琶湖の「せっけん運動」も、そうした背景によるもので、琵琶湖の富栄養化の原因を洗剤成分に含まれていたリンによるものだと決めつけ、洗剤を排除し粉石けんを推奨するという運動を自治体と住民が強力に推し進めました。このことは、消費者運動のはしりとしてマスコミで大きく報道され、その後に続く「洗剤追放」の動きに勢いを与えて、“洗剤は悪い”という誤ったイメージを全国へ広めていった、と考えられます。滋賀県や住民団体が、洗剤の代わりにと推奨した粉石けんですが、その後のいくつかの試験を経て、現在では国も“合成洗剤と石けんの環境に対する影響は一長一短である”との見解を示しており、どちらが環境に良いと決めつけることはできないのです。
初期の洗剤の助剤として、リンが含まれていたことは事実です。洗剤が富栄養化の主原因だとする説には疑問も多くありましたが、業界ではこうした世の中の動きを軽んじることなく「洗剤の無リン化」を急ぎ、1985年には無リン化も完了しています。では、それで琵琶湖の富栄養化問題は解決したのでしょうか。当時の滋賀県の下水道普及率は、どのくらいだったのでしょうか。
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■ 界面活性剤の生態リスク評価 |
現在の洗剤には、生分解性にすぐれたLASなどの界面活性剤を採用しており、下水道が整備されていない地域においても、河川水中の界面活性剤濃度が増加するなどの問題はこれまでに起きていません。
また、下水処理施設での有機物の被処理性調査では、有機物の96.5%が除去され、LASなどの界面活性剤についても、99.5%の除去率であることが確認されています。
日本石鹸洗剤工業会では、長期にわたり実施している環境モニタリング調査などから、河川水中の界面活性剤濃度を計測したデータと、ミジンコや藻類や魚類など水生生物に対する毒性試験の結果とを合わせ、水系生態系へのリスク評価を行なっています。その結果、LASなど界面活性剤の環境濃度の最大値は、水生生物に対する無影響濃度よりもかなり低く、「生態リスクは低い」という結論が導かれています。国際的にも、2005年に OECD(経済協力開発機構)がLASの「環境への影響」について、生態リスクは低いと公表しています。
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