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2010年9月21日更新
01.*改めて「洗剤の安全性」を考える *目次へ 
参照カテゴリ> #06.CLEAN AGE No223 

*第2回



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「他社の商品を攻撃して自社商品を売る」“危険です商法”

■ たとえば“経皮毒”について見てみると

 化学物質について、その安全性を含めた注意喚起情報を、消費者に提供することは重要ですが、他社商品の有害・危険性を過度に強調して不安を煽り、自社商品の購買へ誘導することは、その主張や情報の根拠が、科学的に正しいことが明らかでない限り、してはならないことです。
 近年、「経皮毒」ということばを使った情報が、しきりに流されていました。これについて経済産業省は、2008(平成20)年、ある販売業者に対して、業務停止命令を出しています。処分の対象となった違反行為の一例としては、“市販の台所用洗剤に含まれている有害物質が皮膚を通じて体内にたまるので、市販されている洗剤メーカーなどの商品を使っていると将来癌になる。同社の商品はすべてナチュラル成分でできていて、化学物質を使っていないといって、ビデオやDVDを見せて、あたかも同社の製品のみが安全であるかのように、商品の品質、効能について不実のことを告げて勧誘を行なっていた”というものでした。
 つまり、この決定は「経皮毒」の情報には、市販の洗剤や化粧品を否定する科学的根拠はない、と明確に示したものでした。ところが、2010年になって、「日本家政学会誌」に経皮毒の記事が掲載され、後に編集委員会が不適切であったという告知を掲載するといったことがありました。
 こうした科学的根拠のない危険情報の例は、マスメディアにもときどき載るくらいで、なかなか簡単にはなくならないのですが、その背景にはどんな問題があるのでしょうか。
 長年にわたって、環境・安全に関する消費者情報と洗浄・洗剤に関する研究をしてこられた、横浜国立大学教育人間科学部の大矢勝教授は、これに関して情報源の問題があると指摘しています。

■ 不安を煽る危険情報の発信の問題

 科学的根拠のない洗剤否定説の情報源は、2000年あたりから、徐々に変わってきています。それまでは、そもそもの洗剤問題の発端をつくった人脈につながる人々がいて、“洗剤追放運動の理論的支柱”のような役割を果たしてきたグループが、主としてそういった情報を書籍や講演などで発表してきました。それ以降はそれらの情報が、あちこちに孫引きされ、使い回しされ、インターネットの“洗剤=悪”説情報に流れていった、といえます。
 現在では、消費者リーダーと呼ばれる人々の間では、洗剤の安全性が問題になることは、ほとんどありません。安全についての科学的結論は、現時点で最終的なものだと、受け入れる共通理解ができているからです。
 ここでの問題は、過去に専門家によって否定された“洗剤有害説”の枝葉の部分が、今だに“危険です商法”のトークに断片的に使われていることでしょう。動機がお金儲けから始まっていて、商品を売るためだったらなんでもいい、こう言えといわれたからと、受け売りで情報を広めていくことに、抵抗も何もないのです。不安煽動型情報の情報発信者は、科学的根拠もなにも理解なしに使っている場合が多いといえます。それは「危険ですよ」と主張することが、その人が商品を売って利益を得るための必要条件になっているからです。
 しかも、「地球にやさしい」とか、「環境をよくする」という表現が使われることが多いので、自分は世のため人のためになる良いことをしているという錯覚までしている面があります。
 「経皮毒」の場合は、発信者が学者とはいえ、この分野の専門家ではなかったところに、問題点があったといえます。学者ということで、誰もが信用してしまうのですが、研究者といえども自分の専門分野以外では素人同然です。
 これまでに洗剤についてどのような検証が行なわれてきているかも知らず、また界面活性剤の物理化学的特性に関する理解も欠けたまま、論を立ててしまったのです。そして、そこに売らんかなの商売がくっついてきて、利用されるということになります。

■安全性に関する情報は風化していないか

 前述の学会誌の2010年8月号に、「安全性・環境問題に関する消費者情報の課題」と題して、経皮毒問題について寄稿を依頼された大矢教授は、安全情報の出し方にも問題がなかったか、と問いかけます。
 “危険です商法”を見分けるには、そこでいわれていることを鵜のみにするのではなく、その主張や意見に対して反対の立場、それに対立する意見を探して、両方をよく見比べて判断することが必要です。
 しかし、「自分で情報を探して比較して判断する」のは、一般の人にとっては容易なことではありません。また、それはむずかしいからと、一般の人が専門家にきくことは稀でしょうし、専門書を見ることもまずないでしょう。
 洗剤の安全性についての学術的な結論を調べようとすると、1983年に発行された『洗剤の毒性とその評価』まで遡らなくてはなりません。新たな情報発信をする研究者が、その後いなかったこともありますが、業界の情報伝達努力が充分だったかどうか。
 マスメディアでも、充分に調べずに報道することがあり、ある全国紙の新聞記者が「インターネットで探すと洗剤は良くないといった情報ばかり数百件も出てきたので、やっぱり悪いのだろう」との認識で、記事を掲載したこともあったくらいです。
 こうした、“安全情報の風化”ともいう事態が、“危険です商法”の温床になってきたとすれば、これは大きな課題です。
 業界では、今後も、洗剤の安全性に関する情報を積極的に発信し続け、メディアにも正しい情報を伝えるように働きかける必要があります。


photo 業務停止命令の詳細は、経済産業省ホームページから、
リリースをダウンロードして読むことができる




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