“未来に化ける新素材”をさまざまな業界に展開
株式会社クラレ
(本社:東京都千代田区大手町)
お話をうかがった方々(写真左から):齊藤 陽介さん(株式会社クラレ 経営企画室 IR・広報部)、秋山 将人さん(同社 WSフィルム事業部 販売グループ リーダー)、越智 通博さん(同社 エバール事業部 エバール樹脂販売部 販売第一課 課長)※マスコットは“ミラバケッソ”で有名なクラレちゃん
クラレ(英語表記“Kuraray”)という社名は、創業者の大原 孫三郎が1926年(大正15)に岡山県倉敷市で、人工の絹糸といわれるレーヨン(rayon)の製造事業を始めたことに由来します。病院や美術館をつくるなど多くの社会事業も手がけた大原の「世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる」という精神は、今も社内で共有されている大切な指針となっています。
レーヨンに続いて事業化したビニロン繊維は日本初の国産合成繊維で、当初は綿の代替を目指したものでしたが、現在はアスベスト(石綿)代替のセメント補強材などで活躍しています。そして1964年には天然皮革の構造と性能を化学の力で再現した人工皮革「クラリーノ」を開発。ランドセルなどのかばん、靴、バレーボールなどに使用されています。このようにクラレは、天然素材の代わりとなる新素材を化学の力でつくり出すことで成長してきました。
また、素材を原料から開発しているため、その特徴を活かして当初の想定にはなかったような新しい素材も生み出してきました。たとえば、ビニロン繊維の原料になるポバール樹脂の水に溶けやすい性質を活かして、水溶性フィルムを開発しました。そのフィルムは、液体洗剤を包んだ個包装洗濯用洗剤という、計量が不要で利便性の高い新しい製品に使用されています。もちろん、洗剤メーカーからの要望やニーズがあってはじめて実現できたことですが、各洗剤メーカーの洗濯洗剤や製造工程に合う水溶性フィルムを開発し提案するなど、企画段階から一緒に協力して実現していくという当社の営業・開発スタイルがいかんなく発揮された事例といえます。
水溶性フィルムは水に溶けて下水処理場の工程内で二酸化炭素と水に生分解されるため、個包装用プラスチックの使用量やごみの削減に貢献する、環境に優しい素材です。食品向けの水溶性フィルムも開発し、既にアメリカでは栄養補助食品やパーソナルケア製品の個包装用途に採用されています。
食品といえば、廃棄率の高さが社会問題になっています。クラレが1972年に開発した「エバール」は、食品包装材によく使われるポリエチレンのおよそ1万倍のガスバリア性があり、薄くても酸素を通しにくく食品を長持ちさせることができます。匂いも通しにくいので、香辛料などのチューブに使えば香りや風味を保つことができます。加えて複雑な成形にも適しているため、自動車のガソリンタンクなどにも使われています。
このように、洗剤や食品など身近な製品から自動車向けの部材まで、開発した新素材がさまざまな業界でいろいろなものに姿形を変えていくのも醍醐味です。しかし業界や国が変わると素材の知名度はとたんに低くなってしまうので、販売担当は扱う素材をよく理解し「こんな用途に使えるかも?」と予測して、フットワークを軽くすることが大切ですね。人の暮らしの縁の下の力持ちである魅力的な素材を、今後も広く提案していきたいです。

↑受付前で民族衣装をまとった等身大(?)のクラレちゃんがお出迎え