『健やかな未来に向けて』は当工業会会員社の、“健康”にまつわる取り組みを紹介する連載です。
ー第2回ー
花王株式会社
1887年創業。洗剤類や化粧品などの日用品メーカーとして「清潔・衛生」を追求してきました。その知見と技術で社会課題の解決に貢献する活動の一つ、『GUARD OUR FUTURE』を推進しています。
【お話をうかがった方々】花王株式会社 ヘルス&ビューティケア事業部門 アジア(国際)事業推進部長 神谷 光俊さん(左)、研究開発部門 パーソナルヘルスケア研究所 瀧澤 浩之さん(右)。
●デング熱から未来のいのちを守る『GUARD OUR FUTURE』
蚊が媒介する感染症で亡くなる人は毎年60〜70万人もいます。その被害者の多くは子どもたちです。とくにデング熱は、東南アジアの国々で社会課題になっていて、温暖化と都市化が進むなかで感染が拡大しています。花王はこの社会課題の解決に貢献するため、10年ほど前から、日本やタイで蚊の研究を進めてきました。
そして2022年6月15日ASEANデングデーに、タイでデング熱啓発イベントを開催し、新技術を使った蚊よけ製品『ビオレガード モスブロックセラム』を発売、「蚊刺されから未来のいのちを守るプロジェクト『GUARD OUR FUTURE』」を始めました。
●人の肌を守る『ビオレガード モスブロックセラム』の技術
蚊よけ商品開発のきっかけは7年前、研究者の瀧澤が『ビオレUV』の“人の肌を守る技術”を蚊よけに応用できるのでは? と社内提案したことです。「蚊刺されの実態を見たい」と、東南アジアで赤ちゃんのおむつの調査にも同行しました。そのときの赤ちゃんの8割以上に蚊刺されの跡があり、駐在していた神谷となんとかしたいねと話したのが最初です。
蚊刺されを防ぐ既存の製品は、80年前軍事用に開発された虫よけ成分DEETや、匂いが強い精油を肌の表面で揮発させて蚊を遠ざけるため、消費者にとって普段使いしにくいものとなっていました。一方、私たちは蚊よりも“人”を見ていたので、人が不安や不快に思う薬剤は使わずに、化粧品に使われるシリコーンオイルで「蚊が止まれない肌表面に整える」という新しい着眼点で技術を作りました。

↑この技術開発と啓発の取り組みが、デング熱の蔓延抑制に取り組むタイ政府や保健省から評価され、製品の発売前から官民一体のプロジェクトをスタートさせました。
●タイの人が毎日使いたくなるボディローションの感触に
この技術を応用した蚊よけ製品『ビオレガード モスブロックセラム』の開発では、毎日使いたくなるボディローションのような感触にこだわりました。タイでは強い日差しなどから肌を守るニーズがあり、1日2回位シャワーで汗を流した後、約9割の人が肌にサラッとしたパウダーやボディローションを塗ります。目指したのはその代わりになるような、現地の人にとって心地よく塗りやすい蚊よけ製品です。社内の界面科学の知見を結集し、効果が最大化できるようなオイルを100種類以上試して製品を完成させました。
タイで発売後の評判も良く、「本当に蚊に刺されなくなった」「モスブロックを使ったあとは蚊のことを忘れてしまいました」といった声を聞き、苦労が報われる思いでした。

←ほかにも、「簡単に使えていい香り。すぐに肌になじむため、外で安心して遊べます」「家族を守ってくれて、幸せな気分になります」など、タイの生活者の声が届いています。
Bioré GUARD Mos Block Serum
(ビオレガード モスブロックセラム)
発売地域/タイ(日本での発売予定はありません)
●官民一体のプロジェクトを、タイ全土に広げていきたい
『GUARD OUR FUTURE』プロジェクトは、花王の「技術で社会課題解決に貢献する」という方針のもと、横断的な社内チームができたことで始動し、タイにおいても政府や保健省と一緒に取り組めたことによって大きく前進しました。
蚊刺されの被害を防ぐには、刺される前に蚊よけなどの予防をすることが大切です。しかしタイでは室内で蚊が生息している住環境もあって、蚊に刺されてから対策する人が多いのが現実です。その一人ひとりの意識を変えて、新しい予防の習慣をつくり、デング熱の蔓延抑制に貢献することは、一企業ではとてもできません。政府機関や外部のパートナーと一緒にやってきたからこそ、タイの学校での啓発、デング熱発生エリアの予測アプリの開発支援など、活動も広がってきています。今後も、ともに社会課題に取り組む仲間を増やしながら、まずはタイ全土にプロジェクトを広げていきたいと思います。