パーム油生産の現状
*2025年3月の当工業会技術委員会主催の講演
『パーム生産・脂肪酸製造の現状及びパームを取り巻く外部環境』の一部を抜粋し編集しています
内海 拓也さん
三井物産株式会社
パフォーマンスマテリアルズ本部
スペシャリティケミカルズ事業部
グリーンケミカル事業室 室長補佐
オレオケミカル(油脂化学)分野では、パーム油が洗剤などの日用品の原料として重宝されています。
三井物産(株)は総合商社として、パーム油の取り扱いに長年の実績があります。また、パートナー企業(KLK Group)と協業し、マレーシア・中国にて脂肪酸とその誘導体の製造事業を展開しています。
■パーム油は生産効率が高く、その用途は幅広い
パーム油(CPO、CPKO)は赤道付近の熱帯地域で育つアブラヤシの果実から得られます。狭い土地でも栽培でき、一度植樹すると、25年間は果実を通年収穫することができます。そのため、パーム油は他の油脂に比べて生産効率が非常に高く、2003年には大豆油を抜いて世界最大シェアの植物油脂になりました。
現在のパーム油の生産量は、植物油脂生産量の約4割(約8千万トン)にのぼり、その8割がインドネシアとマレーシア産です。また、パーム油の用途は幅広く、食料、バイオディーゼル、オレオケミカルの各領域で製品の原料として活用されています。
一方、パーム油の生産量が拡大するにつれて、森林破壊や人権労働問題などのリスクも議論されるようになりました。2004年に持続可能なパーム油に関する円卓会議(RSPO)が発足したのを始め、2018年には、インドネシアでアブラヤシ農園新規開発が禁止され、マレーシアでアブラヤシ栽培総面積650万haの上限が定められています。主要生産国であるインドネシア・マレーシアでアブラヤシの栽培面積は頭打ちのため、近年のパーム油の生産は、持続可能なサプライチェーンの構築を目指しつつ行なわれています。
■アブラヤシ農園の抱える問題
アブラヤシ農園での栽培や収穫作業は、現地ワーカーの人力と熟練の技に支えられています。長年にわたる地道な交配と選抜により改良された品種は、約1年かけて種子から苗木に育てて植樹します。アブラヤシの寿命は25年と言われ、それを超えると果実の収率や品質が落ちるため、老木は伐採し、整地して新たな苗木に植え替える必要があります。しかし、近年は労働力不足もあって、余裕のない家庭農園や小規模農園で植え替え遅延が発生しており、老木化による果実の収量低下が深刻な問題となっています。
果実(FFB)は一房10〜25kg。周りの葉を長い器具で切り落とし、1時間に50個ほど収穫します。収穫後の果実は酸化が早く、質の良いパーム油を得るために24時間以内に搾油工場(MILL)に運びます。
■パーム油の需給不均衡と、今後の見通し
パーム油は需給が不均衡になりやすい傾向があります。オレオケミカル分野では、液体洗剤の原料となるCPKOの需要がとくに高く、需給のタイト化が進んでいます。
この要因として、パーム油は果実(FFB)を100とするとCPOは25、CPKOはわずか2.5しか採れず、CPOとCPKOから得られる留分(脂肪酸の種類)とその発生比率についても、偏りが避けられないことが挙げられます。
なお、パーム油の価格は2024年以降かなり上昇しています。植え替え遅延などの影響で生産量が伸びず、在庫を減らしたことがおもな原因です。今後については、短期ではアブラヤシの栽培面積は増える見込みがないため、パーム油の生産量は現状維持から減少していくことが予想されます。一方、中長期では品種改良・農機具の電動化や農園管理へのドローン導入など省力化による生産効率の向上と、南米・アフリカ・インド等の栽培面積拡大により、パーム油の生産量の増加が期待されます。
(本文中の写真提供:KLK Group)