プラスチック資源循環の取り組み
〜フィルム容器の水平リサイクル〜
花王(株)とライオン(株)が協働して初の製品化
花王(株)とライオン(株)が2020年に始めた『リサイクリエーション活動の協働』が実を結び、2023年5月に世界で初めて、水平リサイクルによる再生材料を使用したフィルム容器、『おかえりつめかえパック』に入った洗たく用洗剤が限定発売されました。現在も改良と実用化に取り組んでいる、花王(株)の瀬戸 啓二さんにお話をうかがいました。
お話をうかがった方:
花王株式会社
瀬戸 啓二さん
研究開発部門包装技術研究所
リサイクリエーションプロジェクトリーダー兼ESG部門ESG活動推進部
◆フィルム容器の水平リサイクルに、なぜ取り組むのですか?
詰め替え製品のフィルム容器は、ボトル容器に比べて約75%も樹脂量を節約し、プラスチック使用量の削減に大きく貢献しています。しかし、詰め替えた後の容器は洗いづらいこともあり、回収率が低く、回収できてもフィルム構造が複雑でリサイクルは難しいとされてきました。その一方で、世の中は循環型社会を推進し、使用済みプラスチックを資源として循環させようとしています。詰め替え製品が邪魔者になっていく恐れもある、と感じた花王とライオン(株)は、使用済みフィルム容器から新たなフィルム容器を作る水平リサイクルの実現を目指し、協働してきました。
花王に関しては、プラスチック包装容器を2040年に「ごみゼロ」に、2050年に「ごみネガティブ」にする計画を公表していて、その達成に向けた取り組みでもあります。
◆リサイクリエーション活動の協働、その狙いとは?
リサイクリエーション活動は「使ったら、捨てる。このあたりまえを変えたい。」を合言葉に、花王が2016年から地域と一緒に進めてきた参加・共創型のリサイクル社会実験です。そしてライオン(株)も「ハブラシ・リサイクルプログラム」などの社会的な取り組みを進めてきました。両社とも資源循環型社会は一社では実現できないと考えており、2020年から協働が始まりました。量販店や薬局などの協力も得ながら一緒に使用済みフィルム容器を集め、水平リサイクルの社会実装計画が、具現化していきました。
◆『おかえりつめかえパック』の製品化は大変でしたか?
使用済みフィルム容器のポリエチレンを再生フィルムにする過程で、品質を安定させるのが大変でした。混入したアルミ箔が原因でフィルムが穴だらけになり、PETやナイロンが原因で表面が凹凸になる問題も発生しました。技術改良を重ねて、異物をレーザーフィルターで濾し、表面は相溶化剤で滑らかにして、ようやく、水平リサイクルの再生材料を使った『おかえりつめかえパック』が完成しました。
今年の5月、回収を行なった量販店や薬局を中心に限定発売した際は、お店の方にも喜んでいただき嬉しかったです。業界の内外に「フィルム容器のリサイクルはできる」と示し、花王とライオン(株)が協働したことも高く評価されました。
◆これからの取り組みについて教えてください
協働を続け、技術開発では競争もしながら、『おかえりつめかえパック』の定番化を目指します。また、使用済みフィルム容器の水平リサイクルを社会実装するには、まだまだ解決すべき課題があります。廃棄・回収・運搬の効率的な仕組み作りも道半ばで、経済的合理性も高めないと活動が継続できません。そのため、横の連携の強化をはかっていきます。我々を含め18社が参加する神戸市の『神戸プラスチックネクスト』プロジェクトでは、今回の課題を他のメーカーとも共有していて、既存のフィルム容器がもっとリサイクルしやすい仕様に変わっていく可能性もあります。そして店頭では、使用済みフィルム容器を資源に変え、循環型社会を一緒に作っていく意義を伝えて、回収率を高めていきたいです。みなさんもぜひご参加をお願いいたします。
後日コメントを寄せていただきました:
ライオン株式会社
中川 敦仁さん
サステナビリティ推進部
ライオンは「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」ことをパーパス(存在意義)として掲げ、事業活動を進めています。日用品という生活の中で使用される製品にイノベーションを起こし、生活者の行動変容につなげ、より大きな社会インパクトを創出可能と考えています。その一例が、日本に定着した「つめかえ文化」です。
詰め替え製品はそれ自体がReduceであり、本体容器を繰り返し使用するReuseでもあります。そして、それぞれの包装材料を再生材料やバイオマス材料で作れば、Recycle・Renewableでもある、合理的なシステムです。
一方で、複合化(異なる材料が積層)されたフィルム容器は、現状のリサイクルシステムの中ではほとんど再生されていません。この現状を、競合であり同志でもある花王(株)とともに変え、解決に向け取り組んでいきます。