新たな化学物質管理を通し、
サステナブル社会の実現に貢献するために
当工業会の国際委員会は、世界的な化学物質管理の潮流を今後の活動に役立てるため、花王(株)の長谷 恵美子さんを招き、講演『新たな化学物質管理を通した、サステナブル社会実現への貢献』および意見交換会を実施しました(2022年11月17日に対面とオンラインで実施)。講演内容を一部抜粋・編集して掲載します。
長谷 恵美子 さん
花王株式会社 品質保証部門 技術法務・技術渉外センター 戦略・技術渉外部、SAICM推進委員会事務局。SAICM関連の国際会議など議論の場にも参加している。
◆トリプルクライシスと、「物の循環」「金銭の循環」
近年、化学メーカーは化学物質管理の国際目標に関するアプローチSAICM(サイカム)に沿って、国内外の法順守だけではない自主的な化学物質管理を強化してきました。SAICMは2020年に目標未達のまま期限を迎えたため、現在は新目標を協議中で、私も検討の場に携わっています。
今、化学物質を取り巻く環境は大きく変化しています。国連は2021年に気候変動、生物多様性の損失、化学物質・汚染の3つを「地球の三重の脅威(トリプルクライシス)」※に挙げ、強い危機感を示しました。これらの環境問題が人々の不安を増加させ、価値観を多様化させ、社会や市場も変化させています。
とくに欧米はサステナブルな社会の実現に関心が高く、製品の原料調達から廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体でサーキュラーエコノミー(循環経済)が推進され、「物の循環」が加速しました。その企業活動を投資家が評価し始めたことで、ESG投資による「金銭の循環」も拡大しています。
◆これまでの化学物質管理、これからの化学物質管理
こうした背景を踏まえると、日本の産業界も、より自主的な新しい化学物質管理を進めて、新たな社会的価値・企業価値へとつなげていくことが期待されていると言えますー図❶。
これまで通り科学に基づくことは重要で、リスク評価を行なって、化学物質によるヒトや環境への影響を最小化したより良い製品を市場に届けることは変わらない使命ですー図❷。
加えて今後は、人々がもっと安全に安心して使えたり、社会の課題も解決したりできるようなサステナブルな製品を普及させ、化学物質の価値を最大化していくことが重要ですー図❸。
◆サステナブルな社会実現のため「知見の循環」も必要
SAICMの次の国際目標は今秋に発表され、内容には「誰もが化学物質の情報にアクセスできること」も盛り込まれる予定ですー図❹。
人々が化学物質と正しく付き合うことができ、サステナブルな製品を正しく選び、適切に使えるような社会を実現するためには、人々が共感し、より良く行動したくなるような情報伝達や対話をしなければなりません。それには前述の「物の循環」と「金銭の循環」に加えて、「知見の循環」をもっと回す必要があると私は考えていますー図❺。
企業や業界、分野を越えた連携とコミュニケーションの仕組みを一緒に作り、3つの循環を活性化していきましょう。
※参考(外務省HP):https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ge/page25_002025.html
講演終了後、提示された以下の議題についてもディスカッションを行ないました。今後も対話を続けていきます。
◇誰もが科学的に正しい情報にアクセスでき、製品を
正しく選び、適切に使用できる世の中にするには…?
◇化学物質管理を社会的価値・企業価値向上に
つなげていくためには…?
なお、当工業会は自主的な化学物質管理として、界面活性剤の環境モニタリングとリスク評価を1998年から継続的に実施しています。その最新結果はこちらのページをご覧ください。