“捨てない”が前提の経済モデル、サーキュラーエコノミー
容器包装プラスチックの資源循環の取り組み
昨年11月、当工業会の長谷部会長(花王株式会社 社長)はアジア・オセアニア石鹸洗剤工業会会議(AOSDAC)で講演を行ない、企業が “競争から共創へ” の姿勢で「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の実現に取り組む重要性を強調しました。
今年4月に新法『プラスチック資源循環法』が施行されたのを機に、サーキュラーエコノミーと環境問題、SDGs、当工業会の活動との関わりを整理してみます。今回は、花王(株)のコーポレート戦略部門 社長室 外部連携室長の松尾 恵子さん(写真左)、外部連携担当の加藤 佑樹さん(写真右)にお話をうかがいました。
◆サーキュラーエコノミーとは?
従来の大量生産・大量消費型の経済モデル「リニアエコノミー(線形経済)」は大量の廃棄物を生じます。経済活動と環境保全の両立が難しく、気候変動問題をはじめさまざまな環境問題・社会課題との関わりが指摘されてきました【A】。これを解決するのが「サーキュラーエコノミー(循環経済)」という、持続可能な形で資源を利用していく経済モデルです。
まず世界的な目標に、気候変動対策のためのCO2排出量の大幅な削減があり、加えて各国や地域がレアメタルなどの資源の供給不足に対処する手段として、サーキュラーエコノミーに取り組み始めたと言えます。全体のゴールは『SDGsウェディングケーキモデル』のようなイメージで、社会・経済・環境のすべてに好循環をもたらすように取り組むことが大切です【B】。
◆日本石鹸洗剤工業会と会員社の『3R+Renewable』
日本石鹸洗剤工業会は20年以上にわたり、容器包装プラスチックの『3R+Renewable』を推進してきました。製品の濃縮化などによるプラスチック使用量の削減(リデュース)、詰め替え・付け替え用製品の普及促進による本体ボトルの再利用(リユース)、使用済み容器のリサイクル、プラスチックから紙やバイオプラスチックへの素材変更(リニューアブル)などです。また、容器包装のガイドラインなどを作成し、会員社が製品ライフサイクル全体で環境配慮設計をすすめやすいようにサポートをしています。
こうした取り組みにより、2020年度の容器包装プラスチック使用量は1995 年度に比べて42%削減されました(製品出荷量あたり、原単位)。現在は、第四次自主行動計画を定めて循環型社会や脱炭素社会への貢献を目標にしています。
◆“捨てない”前提で資源循環させる仕組みが必要
ただ、現状の延長ではサーキュラーエコノミーは実現できません。リニアエコノミーとサーキュラーエコノミーの違いは「廃棄物」概念の有り・無しです【C】。現状『3R+Renewable』されないプラスチックは廃棄物となって日本ではほぼ焼却されており、サーキュラーエコノミーに近づくには、なにも“捨てない”前提で資源として循環させる仕組みをつくる必要があるのです。
◆新たに『プラスチック資源循環法』が施行
プラスチックの資源循環に向けては、物の設計や使用の合理化による排出抑制と、回収・再資源化の努力が一層求められます。政府としては、今年4月の『プラスチック資源循環法』の施行により、新たにプラスチック使用製品の設計指針や認定制度を設けるなど、メーカーなどの事業者が自主的に回収・再資源化事業をしやすくする狙いがあります。
◆資源循環の促進に向けて「連携」がますます重要に
こで石鹸洗剤業界においても、「連携」がますます重要となっています。企業が“競争から共創”の関係になり、協力して使用済みプラスチックの回収・資源化を進めることが重要です。先行事例に、神戸市と小売・製造事業者、再資源化事業者の計16社が、シャンプーや洗剤類の詰め替えパックの水平リサイクルに挑戦する『KOBE PLASTIC NEXT』があります【D】。参加している企業の多くは、海洋プラスチック問題を官民連携でイノベーションにより解決しようと設立された団体『CLOMA』をプラットフォームに協働しており、今までにない規模で実証テストを行なっています。
日本は、飲料や特定調味料などのPETボトル回収率が96.7%(2020年度)と非常に高く、廃棄物処理のインフラもしっかりしています。それもあって海への流出量は比較的少ないとも言われますが、日本全体で廃棄物を再資源化し新たなごみを発生・流出させないという切り口は、世界の海洋プラスチックごみ問題の解決にも貢献すると考えられます。
◆プラスチック資源循環の課題 現状と今後
日本の個々の活動は世界に引けを取りませんが、成果を発信し広げていくのは不十分と言えるかもしれません。
プラスチック素材はごみの問題がある一方で、容器包装だけをとっても飲み水を安全に世界中に届けることができたり、食品の消費期限を伸ばしてフードロスを防いだり、衛生に欠かせない洗剤類を安全に便利に使えるようにしたりと、現代社会に欠かせません。だからこそ適切に取り扱って、適切に循環させる大切さを広く理解してもらうことが大事です。
現在感じている課題は、再資源化事業にかかるコストアップをどこでどのように受け止めていくかです。これはサーキュラーエコノミーを成立させるうえで避けて通れないテーマです。もう一つは再資源化の過程で発生するCO2への対処方法です。大量にCO2を排出するやり方ではなく、サーキュラーエコノミーを追求するときはCO2排出量削減も成立させるように取り組まなければなりません。
決定的な解決策があるわけではなく、複数の視点や道筋を組み合わせていく必要があります。企業間の連携が加速して社会全体を巻き込み、切磋琢磨して良い方法を確立していけると、サーキュラーエコノミーの実現に近づけるのではないでしょうか。日本石鹸洗剤工業会においては、国内での成功事例をアジア地域やAOSDAC加盟国をはじめ、グローバルに広めていく役割も一層期待されると考えています。