日本中毒情報センターの活動
〜中毒110番で急性中毒事故に対応・
洗剤類メーカーとも情報共有〜
公益財団法人日本中毒情報センターは1986年に医療現場の要望で設立され、中毒医療の向上に貢献してきました。本部を置く茨城県つくば市と大阪府箕面市の2拠点に設置された『中毒110番相談電話』では、化学物質などによる急性中毒が発生した緊急時の問い合わせに対応しています。
日本石鹸洗剤工業会は、洗剤類の誤飲・誤食事故の予防を啓発しています。このたびクリーンエイジ編集部が大阪の施設を訪れ、中毒事故の状況をうかがいました。
お話をうかがった方々(写真右から):遠藤 容子さん (公益財団法人 日本中毒情報センター 大阪中毒110番施設長)、三瀬 雅史さん(同 次長 製品情報整備担当)、波多野 弥生さん(同 次長 症例収集担当)
●日本中毒情報センターの『中毒110番相談電話』
当センターでは“化学物質や自然毒に起因する急性中毒”に関する情報を収集・整備し、一般の方々や医療従事者の方々へ情報提供しています。
主な事業の一つ『中毒110番相談電話』には年間3万件以上の問い合わせがあり、薬剤師や獣医師が365日24時間体制で対応しています※1。設立から約30年の間に寄せられた相談内容や事故情報は、累計110万件以上にのぼりました。それらを解析して統計を作成し、独自にデータベース化し、医療関係者のほか、企業や行政機関へフィードバックしています。この活動を通じて、中毒事故を減らしていくことが当センターの目的です。
●乳幼児の誤飲・誤食に関する相談が多い
中毒110番への問い合わせの90%近くは一般市民からで、その多くは住居で発生した中毒事故に関するものです。ほかに約8%が医療機関から、残りの数%が薬局や消防、学校、高齢者施設などからの問い合わせとなっています。
一番多い事故内容は、家庭用品や医薬品の誤飲・誤食です。誤飲・誤食の問い合わせは全体の約95%を占めていて、事故の当事者の年齢は、全体の3/4が5歳以下の乳幼児となっています。事故の発生は、朝の7時から8時にかけてと、夕方の16時から17時にかけて急増する傾向があります。
これらの情報を総合すると、家庭での誤飲・誤食の事故の多くは、家事で忙しくなる時間帯に子供からちょっと目を離した隙に起きていることが推察されます。
●家庭用品の誤飲・誤食が発生しやすい状況は?
ここでいう家庭用品には、たばこ、玩具、洗剤類などが含まれます。近年増えているのが加熱式たばこの事故です。加熱式たばこは火を使わない安心感からか、使用済みカートリッジを放置したり、ごみ箱に捨てたりする人が多く、それを子供が口にしてしまうのです。
品目を洗剤類に限定すると、塩素系漂白剤による事故が最多となります。2018年は、漂白中の湯飲みなどの食器を放置していて、それを誤って口にしてしまったという報告が平均すると1日1件以上もありました※2。次いで乳幼児による誤飲・誤食、ペットボトルなどの飲食物容器に移し替えたことによる誤飲・誤食が多くみられました。
一方、衣類などの漂白に使われる酸素系漂白剤は、比較的子供の手が届きやすい場所で使用されるためか、乳幼児が触ったり舐めたりする事故が最多となっています※3。同じ分野の製品でも、使う場所や使い方によって事故の状況も変わってくることがわかります。
ほかには、便器に使用中のスタンプ型のトイレ用洗浄剤を乳幼児が指で触って舐めたり、認知症の人が固形石鹸を食べてしまったりと、認識・判断が困難な乳幼児や高齢者で起きた事故も少なくありませんでした。
●家庭用品の中毒事故は高齢者においても要注意
家庭用品に起因する中毒事故は、高齢者においても多く発生しています。乳幼児の誤飲・誤食は、件数は多いものの、中毒110番に連絡があった時点で急性中毒の症状が出ていることはまれです。一方、高齢者の誤飲・誤食の場合は症状が出てから周囲が気づいて問い合わせに至るケースが多いため、重篤化に注意が必要です。
●当センターの『中毒110番相談電話』での対応
中毒110番では、電話口で事故の状況や中毒症状の有無を確認したうえで、医療機関を受診する必要があるかどうかをアドバイス(助言)しています。その際、事故が起こったことで気が動転している相手の方の気持ちを落ち着かせて正確な情報を把握することと、回答時に「今回は◯◯時間経っても症状が出ていないので受診の必要性は低いです。」などと理由もあわせて説明することを心がけています。
●家庭での中毒事故を防ぐために
事故を防ぐには、まずどのような中毒事故が発生しているのか知っていただくことが第一歩と考え、ホームページでの情報発信も充実を図っています。家庭用品は多種多様なため、それぞれに正しい使い方を守り、使用後は適切な保管場所に戻すなどの管理を徹底していただくことが大切だと感じます。当センターで整備した資料やデータは講演会や学会でも発表しています。ぜひ家庭用品メーカーのみなさんにも活用していただき、注意喚起や製品表示の改良などに役立てていただければと思っています。