
明治維新から昭和の初め頃まで、生糸は日本の主要な輸出品でした。蚕糸業の発展を目的に明治政府が1884年に設立した蚕病試験場こそ、同大学工学部と科学博物館本館の前身です。蚕病試験場は、病気にかかりにくい蚕を育てる方法を研究する機関として、日本を世界一の生糸生産国に押し上げる原動力となりました。同館では、その歴史と功績を今に伝える学術資料や標本などを公開しています。
展示室に並ぶ大型の機械は、繊維産業の技術的な変遷を物語ります。日本初の木綿の多条紡績機であるガラ紡や、1台で300件以上の特許や実用新案が取得されたというニッサン自動繰糸機(生糸の生産用)、24時間自動で横糸を補給する豊田佐吉考案の織機、水流で合成繊維の布を織るウォータージェット織機など、どれも革新的な技術で糸や織物の生産性を飛躍させた機械です。ボランティア団体の繊維技術研究会の皆さんによって今も動く状態にメンテナンスされており、実際に稼働する様子も見学することができました。

▲ニッサン自動繰糸機HR-II
(1974年製)生糸をつくる全工程を自動化した機械。太さが一定でない繭糸から高品質な生糸を量産するため、繰糸中に太さを感知して繭糸を自動で追加する仕組みを搭載。

▲ウォータージェット織機
(1970年前後〜)高速水流で横糸を飛ばして織る機械。水に強い合成繊維向きで、今も世界中で使われている。
同館の所蔵品は13,000点にのぼり、展示品のなかには、江戸の人々が養蚕に従事する姿を描いた錦絵や、世界初の人工繊維(シャルドンネ人絹)などのめずらしい資料もあります。また、大学に付属の博物館ということで、学生の手による繊維の物性をわかりやすく説明した常設展示や、同大学ですすめられている最先端の研究活動を紹介する展示室があるのも特色です。

▲シャルドンネ人絹 工学者シャルドンネが、蚕が吐き出す美しい繭糸を手本に開発した世界最古の人工繊維(1885年にフランスの特許取得)。引火性が高くすぐに生産終了しており、世界的に希少な資料。
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