ねーねー。この前おばさんいってたでしょう。お洗濯物の汚れのなかにも、見てそれとわかる汚れと目に見えない汚れがあり、水で落とせるものと落とせないものがあり、水に溶けない汚れのなかにもまた、“粒子状の汚れ” と“油性あるいは疎水性の汚れ” の二種類がある…って。
ええ。それがどうかしたの?
うーん、それがね、理屈では何となくわかると思うし、汚れにもいろいろあることも、それもそうなんだろうけど…。
おやおや。ずいぶん深刻になるものね、それくらいのことで…。
たとえば、ですけどね。目に見えない汚れを、これがそうよって、見せてくれれば、納得いくんだけどなあ。
なーんだ。そんなことなの。確かにね、臭いがするとか、黒く汚れているのは、汚れてる洗わなきゃ、って誰でも思うでしょ。でもね、見えないし臭わなくても汚れてるってのはねぇ。
あれっ、おばさんどこ行くの?
いいから、そこで、ちょっと待ってなさい。
はーい。じゃお茶入れとくわね。
あったあった。これを探していたの。
わぁ、これは顕微鏡写真ですか。
そう電子顕微鏡写真ね。まずこっちの二枚を見て。(写真A・B)
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写真A |
写真B |
これはどちらも1000 倍に拡大した時の綿布の表面なんだけど、こっちの写真A が汚れていない衣類の衿の表面を写したもの。そして、こっちの写真B が同じ素材で着用後の汚れた衿の状態。
ほー。これが汚れなの? なるほど、見た目ではわからなくても、電子顕微鏡で見ると汚れていることはよくわかるのね。
でしょ。問題はね。こういう汚れが、衣類などにどのようにしてくっついてくるのか、ってことなの。
ただ、衣類が汚れたとか、汚れがくっついたとかじゃダメなの?
ダメってわけじゃないけど、汚れを落とすのが洗剤や洗濯の目的ならば、それを達成するためには、当然そういった汚れがどんなふうにしてくっついているのか、それを分析しないといけないわけよ。
なるほどねえ。では、それをお聞かせくださいな。
汚れは単純なものではなく、複数の成分や原因が混合した形のものが普通だということは、前にもいったわね。そのことをまず前提とします。
はい。
汚れの付き方には、下図のような五つが考えられるの。どうかしら? それぞれ、想像できる汚れの付き方でしょ?
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汚れはこんなふうにして付く |
そうですねぇ。1 はわかる。2 も毛細管現象ってやつよね。4 の静電気もわかるけど、ぴんとこないのは3 の「引力」かな。
よろしい。ま、そんなとこでしょう。これもね、専門的には「ファンデルワールス力」というんだけど、目には見えないところで一般に小さな分子は互いに引き付け合う力が働いているの。
そうか。化学結合も何となくわかるけど...。
これも難しくいえば、繊維分子の官能基と汚れが結びついて、その間に化学変化が起こるの。関連で、わかりやすい想像しやすい例をあげてみると、身体からでる皮脂の汚れがついた衣類を、そのままおいておくと、汚れが変質して黄ばんできたり、においをだすようになるでしょ。
そうそう、汚れが落ちないままだと、だんだんごわごわして着心地も悪くなってしまう…。
それも汚れが吸水性を悪くしているからなの。これらは、化学結合ともちょっと違うけれど、汚れが化学作用で変化する一例といえます。
汚れの付き方によっては、はたいたりブラッシングで落ちるものもあるけど...。
そうでない汚れもある、ってことなのよ。じゃ、ついでにもうひとつ。この写真を見て。(写真C)
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写真C
a:未着用
b:着用・未洗浄
c:着用・酵素無配合洗剤で洗浄
d:着用・ある種の酵素を配合
した洗剤で洗浄 |
ああ、この丸いのが繊維なのかしら。
そのとおり。これは繊維の断面の透過型電子顕微鏡写真よ。丸い一つ一つが綿毛の断面で、何十も集まったのが、糸の断面なの。白いのは汚れていないものだけど、黒い部分には汚れがあるの。汚れが繊維の中にまで浸透しているのがわかるでしょう。
わぁ、これじゃブラシでも水洗いでも落ちそうにないですね。
そこで、洗剤などが必要になってくるのだけど、それはまた別の話。(つづく) |