日本石鹸洗剤工業会(JSDA)
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2004年9月15日更新
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参照カテゴリ> #02.調査研究 


界面活性剤のリスク評価は
 どのように行なわれ どういう結果が出ているか
 
PRTR法に基づき国が公表した数値の読み方
 化学物質を扱う事業者が行なうべき自主管理活動の改善・強化をはかり、環境汚染を未然に防止しようという「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の促進に関する法律」(いわゆるPRTR法)が2001年に施行され、排出量・移動量の公表も二度になりました。
 法律の概要については、本誌前号(198号)でもお知らせしましたので、今回は4種の界面活性剤について国が公表した数値の見方や、このような物質が本当に有害か、もしくは環境に影響があるかどうかの指標となるリスク評価の方法とその結果についてご説明しましょう。
■公表された排出量や移動量の意味
 事業者が都道府県に報告しなければならないとされている、指定化学物質の排出量や移動量は、最終的に国が独自に推計した届出外の排出量や下水道への移動などの数値とあわせて、年一回公表されています。第一種指定化学物質354種の排出・移動量合計は109.6万トンで前年より1.3万トン減少しています。トルエン、キシレン、塩化メチレンなどの揮発性溶剤が上位を占めています。その内容を第一種指定化学物質全体と界面活性剤四種類についてまとめると、表1のようになります。そして、界面活性剤4種についてさらにくわしくまとめたのが表2です。


指定されている界面活性剤4種類はどんなもの?
 LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)は難分解型だったABSの代替品として家庭用・業務用洗剤に世界的に広く使われています。
 AE(ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル)は高級アルコール系の代表的非イオン界面活性剤で、洗剤のほか繊維等の処理剤にも使用されています。
 DAC(ビス(水素化牛脂)ジメチルアンモニウムクロリド DHTDMAC)は陽イオン型界面活性剤の一種で柔軟仕上げ剤、リンス剤などに使われています。
 AO(N,N-ジメチルドデシルアミン=N-オキシド)は高級アルコール系界面活性剤の一種で洗浄補助剤として食器用洗剤、業務用洗剤、香粧品などに使われています。 

 まだ、二年分のデータしかない段階なので、前年の比較で増減量についての解析が必要ですが、それぞれの数字の意味するところや、それらからうかがえる傾向等について議論を行なうには、もう少しデータの蓄積が必要です。
 それらのことを前提としたうえで、この表をみると、表1では(1)354種類の指定化学物質全体では届出外の排出量が多く、排出量の合計では年間約88万トンあること、(2)そのうちに界面活性剤4種類の排出量は4.3万トンであり、そのほとんどが届出外であること、がわかります。また、表2では(1)届出事業者自身が排出している界面活性剤の量は少ないこと、(2)届出外の推定排出量の家庭用製品由来の量が多いこと、がわかります。
 表2で示されている排出量というのは、公共下水処理場で処理されず環境水中に排出される量をさしています。わが国の下水処理場の普及率は現在(01年)、64%であり、団地等の合併処理浄化槽も含めると約74%の普及率とされています。したがって、ここでいう排出量とは、これらの下水処理場で処理されない約26%に相当する量ということになります。一方、下水処理場で処理される量は、表では参考値として表されています。下水処理場では上記の界面活性剤は良好に処理されており、除去率は99%以上であることが確認されています。
 さて、そこで環境に排出される4種の界面活性剤のうち、家庭用洗剤に由来する分は3.46万トンになります。これを多いと見るか少ないと見るかは、あるいは立場によって異なるかもしれません。しかし、重要なことは排出されたこれらの界面活性剤が環境中でどのように変化をし、また生態系に対して影響を及ぼしているかどうかを把握することです。日本石鹸洗剤工業会でもこれまで多くの調査を行ない、洗剤は環境中で自然の浄化作用(自浄作用)で充分に分解除去され、生態系に対して悪い影響を及ぼさないものであることを説明してきました。このことを、今改めてリスク評価という手法を用いて確認することが必要と考え、リスク評価を行ない、またその作業を継続しています。
 多摩川にもアユが戻ってきたというのはうれしいニュースでしたが、住宅密集地を流れる河川の支流ではまだ生活排水が多く流入しているところもないとはいえません。こうした場所が全国からすべてなくなれば、洗剤が問題にされることもなくなるでしょうが、下水道も普及率70%から上へあげることは、費用と効率の上からもだんだんむずかしくなってくるといわれます。
 このためにひとつの対策として、合併処理浄化槽の普及をさらに促進することによって「届出外家庭」の排出量を減らし、全国の河川をきれいにすることも可能と思われます。
 長年、工業会の活動の一つとして継続している環境モニタリング調査で、環境中の界面活性剤濃度を測定し、無影響であることを確認する作業を続けていますが、これは今後とも継続してリスク評価の裏付けを計っていかなければなりません。国もまた工業会が活用している多摩川モデルと同じようなシミュレーション手法を含む詳細なリスク評価を計画中と聞いています。


■リスク評価の意味
 界面活性剤のリスク評価とは、環境中に排出されているLASやAEなどが、人や水環境に対してどのような影響を与える可能性があるかを検証するもので、リスクは通常、上の公式で把握できます。
 人体への安全性を確認するために、人で試験をする訳にはいきませんが、過去にもさまざまな毒性試験(急性毒性・慢性毒性)も行なわれており、その結果からは通常の使用で人への影響はないという結論が出ていますし、どのくらいの量を摂取すれば影響があるかの数字も出ています。リスク評価の方法のひとつであるハザード比(HQ)を例に説明すると、ハザード比(HQ)が1より小さければリスクは小さく人への安全性についての懸念はないといえます。反対に1より大きい場合は、リスクが大きいと判断され、リスクを詳細に解析した上で、対策検討が必要になります。
 また、環境への影響をみるためには、生態系を構成する主要生物(藻類、ミジンコ、魚など)を使った急性から慢性毒性試験やライフサイクル試験などが行なわれます。また、場合によっては自然と同じような生態系を人工的に作った(マイクロコズモ試験)環境を使い、より実環境に近い条件で試験が行なわれることもあります。これらの試験により、それ以下であれば毒性は出ないという量である予測無影響濃度(PNEC)が算出されます。そして、実際に環境中の濃度を環境モニタリング調査などで予測した量である予測環境濃度(PEC)を求めます。このPEC/PNEC比が1より小さければリスクは小さく環境への安全性についての懸念はないといえます。
 このようにして、リスク評価は行なわれています。リスク評価として、暴露マージン(MOE)を用いた方法もあります。結果的にはハザード比による方法と同様の結論を得られますが、ここでは説明を割愛します。


■工業会が行なったリスク評価の結果
 人の健康に対する影響については、これまで多くの検討が行なわれ、通常使用の範囲内であれば安全性に問題ないことが厚生省(現在の厚生労働省)の報告書(1984年)での結論として述べられています。
 日本石鹸洗剤工業会が行なったリスク評価の結果を、4種類の界面活性剤ごとにまとめると、表3のようになります。人健康影響についてLASではハザード比は0.097<1 となっているのをはじめ、すべてリスクは小さいという結果が出ています。また水環境影響について、PEC/PNEC比 でみた界面活性剤の環境濃度は予測無影響濃度(もっとも厳しい基準でみている)よりはるかに低く、長期にわたって暴露したときにミジンコや藻類など生態系へ与えるリスクも非常に小さいといえます。


・TDI:Tolerable Daily Intake 耐要1日摂取量
・EHE:Estimated Human Exposure 人への推定暴露量
・HQ: Hazard Quotient ハザード比
・PNEC:Predicted No Effect Concentration 予測無影響濃度
・PEC:Predicted Enviromental Concentoration 予測環境濃度

 とかく「洗剤が水環境を汚しているのではないか」といわれ、PRTR法に基づき国が公表した数値をみるにあたっても「年間約3.5万トンも界面活性剤を垂れ流しているのはけしからん」というふうにみる向きもあることでしょう。しかし、人や環境に「有害」であるか否かは、あくまでもその排出量の多い少ないではなくリスク評価でみなければおよそ意味がないのです。「PRTR法の指定物質になっているから使ってはいけない」と指摘する声が時々聞かれますが、これらは正しい理解に基づく意見でしょうか。PRTR法は化学物質を適正に取扱い、環境への不必要な排出を抑制するため制定されたものです。
 したがって、問題は、化学物質がどのように使われてどう管理され、その結果が人や環境に悪い影響を与えていないかどうかを常に把握管理すること、すなわちリスク評価こそが重要なのです。PRTR法もめざすところは、そこのところであって、決して取扱量そのものを問題にするものではなく、そのために国もリスク評価をやろうとしているのです。



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