事業者が都道府県に報告しなければならないとされている、指定化学物質の排出量や移動量は、最終的に国が独自に推計した届出外の排出量や下水道への移動などの数値とあわせて、年一回公表されています。第一種指定化学物質354種の排出・移動量合計は109.6万トンで前年より1.3万トン減少しています。トルエン、キシレン、塩化メチレンなどの揮発性溶剤が上位を占めています。その内容を第一種指定化学物質全体と界面活性剤四種類についてまとめると、表1のようになります。そして、界面活性剤4種についてさらにくわしくまとめたのが表2です。


●指定されている界面活性剤4種類はどんなもの?
LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)は難分解型だったABSの代替品として家庭用・業務用洗剤に世界的に広く使われています。
AE(ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル)は高級アルコール系の代表的非イオン界面活性剤で、洗剤のほか繊維等の処理剤にも使用されています。
DAC(ビス(水素化牛脂)ジメチルアンモニウムクロリド DHTDMAC)は陽イオン型界面活性剤の一種で柔軟仕上げ剤、リンス剤などに使われています。
AO(N,N-ジメチルドデシルアミン=N-オキシド)は高級アルコール系界面活性剤の一種で洗浄補助剤として食器用洗剤、業務用洗剤、香粧品などに使われています。 |
まだ、二年分のデータしかない段階なので、前年の比較で増減量についての解析が必要ですが、それぞれの数字の意味するところや、それらからうかがえる傾向等について議論を行なうには、もう少しデータの蓄積が必要です。
それらのことを前提としたうえで、この表をみると、表1では(1)354種類の指定化学物質全体では届出外の排出量が多く、排出量の合計では年間約88万トンあること、(2)そのうちに界面活性剤4種類の排出量は4.3万トンであり、そのほとんどが届出外であること、がわかります。また、表2では(1)届出事業者自身が排出している界面活性剤の量は少ないこと、(2)届出外の推定排出量の家庭用製品由来の量が多いこと、がわかります。
表2で示されている排出量というのは、公共下水処理場で処理されず環境水中に排出される量をさしています。わが国の下水処理場の普及率は現在(01年)、64%であり、団地等の合併処理浄化槽も含めると約74%の普及率とされています。したがって、ここでいう排出量とは、これらの下水処理場で処理されない約26%に相当する量ということになります。一方、下水処理場で処理される量は、表では参考値として表されています。下水処理場では上記の界面活性剤は良好に処理されており、除去率は99%以上であることが確認されています。
さて、そこで環境に排出される4種の界面活性剤のうち、家庭用洗剤に由来する分は3.46万トンになります。これを多いと見るか少ないと見るかは、あるいは立場によって異なるかもしれません。しかし、重要なことは排出されたこれらの界面活性剤が環境中でどのように変化をし、また生態系に対して影響を及ぼしているかどうかを把握することです。日本石鹸洗剤工業会でもこれまで多くの調査を行ない、洗剤は環境中で自然の浄化作用(自浄作用)で充分に分解除去され、生態系に対して悪い影響を及ぼさないものであることを説明してきました。このことを、今改めてリスク評価という手法を用いて確認することが必要と考え、リスク評価を行ない、またその作業を継続しています。
多摩川にもアユが戻ってきたというのはうれしいニュースでしたが、住宅密集地を流れる河川の支流ではまだ生活排水が多く流入しているところもないとはいえません。こうした場所が全国からすべてなくなれば、洗剤が問題にされることもなくなるでしょうが、下水道も普及率70%から上へあげることは、費用と効率の上からもだんだんむずかしくなってくるといわれます。
このためにひとつの対策として、合併処理浄化槽の普及をさらに促進することによって「届出外家庭」の排出量を減らし、全国の河川をきれいにすることも可能と思われます。
長年、工業会の活動の一つとして継続している環境モニタリング調査で、環境中の界面活性剤濃度を測定し、無影響であることを確認する作業を続けていますが、これは今後とも継続してリスク評価の裏付けを計っていかなければなりません。国もまた工業会が活用している多摩川モデルと同じようなシミュレーション手法を含む詳細なリスク評価を計画中と聞いています。
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