日本石鹸洗剤工業会(JSDA)
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2003年3月15日更新
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日本の湖沼の水質をどう守るか
4か所の現地レポートを終えて
須藤隆一先生に
お話をお聞ききしました
埼玉県環境科学国際センター 総 長
埼玉大学大学院理工学研究科客員教授
東北工業大学環境情報工学科客員教授
生態工学研究所 代 表


『クリーンエイジ』では、188号から192号まで、四回にわたって、滋賀県びわ湖を皮切りに茨城県霞ヶ浦、岡山県児島湖、千葉県手賀沼と、4か所の湖沼を訪ね、その水質状況をレポートしてきました。これらは日本の代表的湖沼であると同時に、かねてからその閉鎖性水域の水質汚濁が問題になり、また一部には洗剤との関連が取りざたされていたところです。
 現地レポートは一応終わりますので、その締めくくりとして、長年水環境学会でも活躍してこられた須藤隆一先生に、全体のお話をうかがいました。

◆「きれいにはなっていない」指定湖沼
◆なかなかでにくい水質保全計画の成果
◆技術は限界、住民参加がカギか
◆「よい子も遊べる」水辺を取り戻す
◆大きな視点でもっと全体的に
◆水質汚濁は"生活習慣病"湖沼にダイエットを

◆「きれいにはなっていない」指定湖沼
いま環境省の水質保全計画でいう指定湖沼が10か所あります。そのうちの4か所を訪問し、レポートされたわけですね。それでおわかりのとおり、「水質がよくなっている」といえるのは手賀沼を除いてはないのです。
その手賀沼でさえも"よくなった"といっても、一時は最高28mg/LぐらいまであったCODが少し下がったというだけで、いまでも13に近い値を示しているのですから、きれいになったとは、とてもいえないのかもしれませんね。辛口でいえば、10か所の指定湖沼のうち、きれいになっているところはない、といえます。その他、指定湖沼にはなっていないところでも日本の湖沼で浄化に向かっているところはなくて、水環境として総合的にみると芳しくない方向にいっている、こういうふうにいえると思います。
指定湖沼になっているところでは、県が中心になって水質保全計画を策定して、それを5年ごとに見直しながら、それぞれ目標を立て施策を講じてきています。そして、どれだけ水質が改善されるかをシミュレーションモデルで計算してやっているのです。水質環境基準(生活環境項目)は、CODでは水道水源の場合は3mg/L以下ですが、これは現状ではかなり高い"努力目標"であって、各県ではそれぞれの実情にあわせた改善計画目標を環境基準とは別に立てています。そうしなければ、現実味が乏しい机上の空論になってしまうからでしょうが、いまのままでは、水質の環境基準ではなく、個別の保全目標すら達成していないのが現状なのです。
水質保全計画は、もともと湖沼水質保全特例措置法に基づいて国の基本方針に準拠する形で、各地の湖沼ごとに自治体が具体的な施策を講じたものですから、基本的にはどこでも似たようなことをやっています。もちろん、各地域の特殊性はありますが、やっていることがまったく違うということはないのです。

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◆なかなかでにくい水質保全計画の成果
湖沼の底泥(ヘドロ)を浚渫したり、湖岸に植生をつくったり、ホテイアオイでリンの回収をはかったり、流入河川をきれいにする運動をすすめたり、浄水施設を設けたり、家庭の台所の流しにストレーナーをつけるようPRしたり…保全計画では、県や市町村、さらにその担当各部課にまたがって、総合的に実にさまざまな施策が盛り込まれています。
大規模土木事業的なものも含めて、こうした施策を何年もかけて進めてきたにもかかわらず、なかなか思うような水質改善の成果があがっていないというのは、なぜなのでしょうか。
その原因には、大きくいって二つあると思います。
ちょっときびしい言い方になりますが、ひとつは、計画され行なわれているいろいろな事業が、直接水質の改善に結びついていないものまで見かけ上入れてきた面がある。もうひとつは、そもそも計画した事業が予定したとおりに進んでいないということがあると思います。予定したけれど、当初はこれだけできそうだと思っても結果として達成していないことも多い、そういう"計画"にはつきもののことがあります。
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◆技術は限界、住民参加がカギか
そして、もっといえば、湖沼の浄化については、いままで考えやってきた浄化では、技術的にも限界にきているともいえます。たとえば、下水道処理を進め、産業排水をきびしく規制して、窒素・リン・COD濃度を下げるといっても、それはもう限界でしょう。従来の延長線で生活排水・産業排水、この二つをいくら絞ってみても、あとは少し汚濁濃度を下げる程度でしかない、これではもうだめなのですね。
やはり、これだけの高度技術社会になっているのですから、新しい技術を求めることも必要です。いままでやらなかったことをやるとか、新しい発想でなにかしないとうまくいかないのかもしれませんね。
技術も重要なのですが、しかし、それと同じくらい大切なのが、住民にも全面的に参加してもらうことです。この二点のどちらかではなく、どちらも半々で重要なことです。
水は、一部の学者や研究者のものでも技術者のものではないし、もちろん役所のものではなくて、そこに暮らす地域の住民のものです。だから「公共用水域」なのですね。そこの地域の住民が、こぞって参加して保全していくということが大切です。
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◆「よい子も遊べる」水辺を取り戻す
「よい子はここで遊ばない」……一時はそういう看板が水辺に立っていたのです。最近はなくなったようですが、霞ヶ浦がそうだったんです。湖岸にいくと、鉄条網が巡らしてあって、看板が立っている。水辺で遊ぶ子は悪い子なんですよ。そんなことで、水が汚れた水辺から人を隔離し、遠ざけてきたこともあったのです。
 実はこれが、水を悪くしたもっとも大きな原因なんですよ。昔は、おばあさんが川に洗濯に行っていたように、人間にとって生活に結びついた大切なものだったのです。昔に戻れという意味じゃありませんよ…。そのくらい川も湖も、人の暮らしに直結した環境だった、住民が参加してそこまで戻していかないと、いけないと思うのです。そういうと、すぐ「住民が参加すればきれいになるんですか」という人がいますが、技術や施策と合わせての話です。
人間が、一部の利益のために勝手放題、森や林をつぶして、コンクリートで固め、水を汚し、それをどんどん垂れ流していては、いけないのです。多少の不便さがあっても、あるいは経済的な不利益があっても、それも環境を守るためにはやむを得ない…そういう認識に住民がならなくてはなりませんね。
埼玉県では、大きな湖沼はないのですが、環境パートナーシップの構築をめざして「ふるさとの川再生」という運動を展開しています。どこにも身近な川があり流域があり、上流と下流でも違う。その川筋の再生保全を、それぞれの地元が中心になって、1年かけて水生植物で浄化しましょうとか、川ごとにやることを決めます。もちろん、堤防を自然護岸にするとなれば、予算がいります。下水道のように多額の予算を必要とはしないかもしれませんが、それぞれの川について土木工事をともなうある程度の予算は必要になります。ただ、住民が草を植えました、空き缶を拾いました、そんなことだけではうまくいくわけはないのです。
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◆大きな視点でもっと全体的に
いままでは、あまりにも住民参加型施策が少なかったことは事実です。住民参加というと、どこでも「合成洗剤をやめて石けんにすべきだ」という声の大きい人が目立ったりするのですが、埼玉県では生協主催でタウンミーティングを重ねて、一年ぐらい勉強会をやったのです。みんなで勉強した結果、「合成洗剤が×でせっけんなら○」ということはないこと、どちらも使いすぎれば環境に負荷がかかる点では同じで一長一短があること、大切なのは適正量使用をこころがけること、大ざっぱにいえばそういう合意を得たのです。
水質保全では、もっと大きな視点で全体をとらえて理解してもらうことが重要です。生活排水・産業排水は、実は湖沼に影響する一部にしか過ぎないのです。では、どこが一番多く影響を与えているかといえば、それは「面源」です。非特定汚濁源(ノンポイントソース)といっていますが、それが最大の課題なのです。市街地に雨が降る、それがあらゆる汚物とともに雨水側溝から流れ出て川や湖沼に入ります。田畑に雨が降る、それといっしょに肥料の半分くらいは流れ出してしまいます。

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◆水質汚濁は"生活習慣病"湖沼にダイエットを
水質保全の決め手はないのかとよく聞かれます。残念ながら、決め手はありません。
生活習慣病は、若いときに無理したとか、栄養をとりすぎたとか、いわば過去の蓄積が原因なので、今すぐなおせといわれても大変で、時間もかかりますね。ジョギングや散歩で体を動かしたほうがいいですよ、食事は少なくしたほうがいいですよ、酒はやめなさいたばこもだめです、いろんなことをいうので、課題メニューは山ほどある。ひとつだけやって利くものはないですね、それと同じなのです。
メニューはいっぱいあって、少しずつでないと、一度にやれない。悪くなる要素はたくさんある。治療にはお金もかかるし、生活しながら仕事もしながらやらなければならない。それぞれの効果はあっても1%以下かもしれない。それでもやらなければならない。
湖沼も川も、生活習慣病だから、放っておくと悪くなるだけで、余病を併発する危険さえあります。今のところは、血圧もなんとかぎりぎり維持している、よくならないといわれるが、頑張っているからこれ以上悪くならないで保っている、というのが現状でしょう。
湖沼にも川にもダイエットが必要です。食べ過ぎるからろくなことがない。しかも、過去にたまったものが排水管とか底泥にも残っているから、いま急にやってもすぐに効果を求めるのは無理なのです。
これからは若い人に期待し、発想を転換して攻め方を変え、新たな環境保全技術やメニューを設けないといけないのかもしれません。むずかしいことは事実ですが、結局はみんな自分にかえってくることです。多少は無理な目標であっても、挑戦し続けていかなくてはなりませんね。 (談)


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