■油脂には利用分野が三つあるが…
油脂については、先号で原料を中心に解説をしましたが、今号ではそれに引き続いて、「油脂製品」です。
油脂を原料として利用する分野は、食品用加工油脂・油脂化成品・洗剤香粧品の三つに大きく分けられます。
油脂をいちばん多く使うのは、なんといっても食品分野で、全体の8割を占めています。マーガリン、マヨネーズ、食用硬化油などの、加工品の原料です。
「油脂製品」という場合に、幅広く油脂に係わるものはすべて含めて使われることもありますが、ここでは、油脂化成品の分野から生まれるものを、「油脂製品」としています。(図1)
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図1 油脂化学工業の原料から製品まで
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一方、当工業会がかかわる洗剤、石けんの一部は油脂そのものを原料にすることもありますが、家庭で使用される洗剤やシャンプー・リンス、化粧品類の多くは、化学反応で油脂から生まれる油脂化成品からつくられています。
今回は、その概略と大きな流れの解説です。
■油脂から化学反応によって導き出されるもの
油脂はもともと、グリセリンと脂肪酸が結合したトリグリセライドと呼ばれる化合物です。そのため、加水分解すると脂肪酸とグリセリンに分けることができます。
脂肪酸とグリセリンは、そのままでも使い道がありますが、さらに別の方法で化学反応を起こすと、分子の一部が変化して「誘導体」が生まれます。
これを、油脂から導き出されるので、「油脂誘導体」といいます。誘導体とは、分子の一部分が変化してできる化合物のことです。
■油脂化学の流れを模式的に整理してみると
何度か段階を追って、反応を加えていく過程で、各種の誘導体ができますが、そのルートにもいろいろな方法があります。たとえば、アミンの場合、脂肪酸にアンモニアを反応させてつくるほかに、アルコールを経由してつくる方法もあります。
こうした化学反応の過程で、一次誘導体、二次誘導体などと、段階別に分けることもでき、その種類は多岐にわたります。本来、これらの誘導体の製造過程は、会社によって違うのですが、図2に油脂と油脂製品の相関をまとめてみました。
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図2 油脂と油脂製品の相関関係
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■油脂製品は工業用にも多く使われている
油脂製品を製造する会社では、それらを自社で使用して製品まで一貫して製造する場合もあれば、それを必要とする他業種の会社などに販売することもあります。
この過程でも、何を必要とするかによってプロセスが異なり、そのつくり方によって、できてくる製品が違い、化学品の名前も違ってくるという経過をたどります。
油脂製品の市場は、家庭用品と工業用製品に分けてみることができます。
「油脂製品」については、家庭用品では、各種界面活性剤を中心に、さまざまな洗剤・洗浄剤や香粧品に広く使われていることはよく知られていますが、工業用でも、多くの業種で役立っています。保湿・安定・乳化・可溶化といった機能をもつグリセリンは、医薬・化粧・樹脂・塗料などの分野でも、欠かせないものです。
ステアリン酸など脂肪酸も、工業用に使われるものが多く、一例をあげれば、ゴム用の滑剤があります。タイヤなどのゴム製品にステアリン酸を練り込むことで、加工性が向上し、生産工程において、なくてはならない添加剤となっています。
その他、油脂誘導体はプラスチックとの相性も良く、各種プラスチック製品の加工性向上、機能向上に欠かせない添加剤として、幅広く使われています。
また、アミンは柔軟剤や埃が吸着して汚れるのを防止する、帯電防止剤などの分野で活用されています。
このように、油脂製品は界面活性剤のほかにも、幅広くいろいろな役に立っているのですが、それらはあまり表に出ることがありません。しかし、各業種のものづくりの現場では、人知れず大きな貢献をしているのです。
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