■油脂は自然界の動植物のなかに存在する
通常「油脂」とは、脂肪酸とグリセリンとの結合物をさしていますが、それらは自然界に生きている動物や植物のなかに多く含まれているものです。
昔から人間は、それを取り出して使ってきました。それを原料としてさまざまな油脂製品がつくられ、それはまた食用、工業用などさまざまな用途があり、幅広い分野で利用されています。石鹸も洗剤も、その原料は油脂に辿り着くのです。
動植物油由来の油脂は、脂肪酸を含むという共通点があるのに対して、石油など鉱物由来の揮発性物質は、油とはいっても脂肪酸を含まないので、油脂には分類せず区別しています。
ここでは油脂製品の原料となる動植物油=油脂の最近の動向などを、当工業会油脂製品部会で聞いてみました。
■油脂原料には動物系と植物系があるが
油脂は、まずその由来から、植物系と動物系の油脂に分けることができます。ペリーが日本の扉を開こうとした背景として、日本近海でクジラを獲るアメリカ船のため寄港地を確保する必要があったことは有名な話です。
彼らがクジラを獲る理由はただひとつ、その油を本国へ送るためでした。そのほか、動物系はイワシやサバなどの魚からも採れますし、ウシやブタなどの家畜から採れる油脂も貴重でした。
そして、植物のなかにも、そのタネや実に多くの油脂を含んでいるものがあることがわかり、油を採るために品種改良し、栽培されるようになりました。
近年では、植物系のほうが大量に使用されるようになっていますが、そもそも油脂は、世界中でどんなものがどのくらい生産されているのでしょうか。
この分野では世界的な権威である“Oil World”誌が発表している数値から、ここ10年の傾向をグラフで見てみましょう。
↑世界の油脂・種類別生産量の推移
大きな傾向としては、植物系の伸びが著しいことがわかります。そのなかでは、大豆油とパーム油の伸びが目立ち、その量は2007年でどちらも3,700〜3,800万トンです。それに続くのが、なたね油で1,800万トン、次がひまわり油で1,100万トン、といった状況になっています。
動物系にくらべ植物系は、食用として多く使われており、食用の使用量の増加にともない、生産量が増えてきています。
■油脂は急には増やせない
本紙の冒頭記事の通り、油脂の高騰が注目されています。世界的にみても食用需給がひっ迫してきて、工業用に回ってくる量が少なくなるという構造それ自体は、根本的には変わらないのです。
たとえば、石油投機筋の影響が大きい石油は、今のところは増産しようと思えばある程度できるので、需給調整も可能といえます。
ところが、植物系油脂はもともとが植物のタネや果実の成分なので、急には供給を増やすことができません。作付の調整ができたとしても、それが収穫に結びつくまでには何年もかかり、それが生産上の問題といえます。
■日本は油脂輸入国だが
2007年を例に見ると、パーム油の生産量は3,800万トンで、その8割以上がマレーシアとインドネシアで生産されています。主な輸入国は、中国570万トン、EU480万トン、インド400万トンなど推定されています。
一方で、財務省の通関統計によると、日本の輸入は52万トンでした。
日本では、輸入量の8 割以上が食用で、例年、残りの15%前後が工業用として使われています(農水省統計)。
■バイオディーゼルでは
よく、バイオディーゼルの原料に油脂が使われているから、それが市況や需給状況に影響を及ぼしている、といわれています。けれども、実際にはそんなにたくさんの量をバイオディーゼルに使っているわけでもないのです。
ただ、ディーゼル車主流のヨーロッパでは、5%バイオ(軽油に脂肪酸メチルエステルを5%入れることを義務づけた法律がある)に政府が補助金を出しているので、なたね油を中心に需要が強含みという傾向は、確かにあります。
しかし、これはアジアなど暑いところでは普及していないので、世界的にみても、やはり食用需給が油脂製品の中心であるといえましょう。
それは、前記の主な輸入国を占めている国が、中国やインドであることからも裏付けられます。
■環境重視で油脂にもさまざまな動きが
また、最近の特徴的な話題として、環境面からの動きも軽視できません。
バイオ燃料を普及しすすめていくにあたって、いわゆる回収油(廃油)を活用しよう、これをもっと積極的に工業用燃料として再利用し、循環社会をめざそう、という動きもあるようです。
食べるための米ではなく、油脂を採るための米をつくるとか、廃材から油脂をとりだすなど、いろいろな動きもあります。
油脂系燃料は、石油系燃料に比べて、新たなCO2を発生しないし、生分解性がいいと、燃料としても人気が高まる一方なのです。
また、潤滑油としての需要も拡大傾向にあります。潤滑油といえば従来は石油系が主流だったのですが、これに油脂系を使おうといった動きが、環境省や国交省の方針にも見られます。ヨーロッパでは、畑で動かすトラクターなどに使う潤滑油は、なたね油にしようという動きがありました。食物を育てる畑に油が混ざっても、影響が少ないという配慮なのです。日本でも、ダムや堤防の水門のように、自然のなかにある構築物については、石油系から油脂系の潤滑油に変えていこうとしているようです。
民間レベルではまだそこまでいきませんが、これが進んでいくと、食品工場の潤滑油には油脂系のエステルを使おう、といった動きになっていくのかもしれません。
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