洗剤は、国内で一般的に行われている活性汚泥処理において、効率的に除去されることが確認されています。
日本石鹸洗剤工業会では、2001年と2007年に洗剤の主成分である界面活性剤の下水処理での除去性を調査しています。LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)、AE(ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル)及びAO(N,N-ジメチルドデシルアミン=N-オキシド)の除去率は、いずれも99%以上でした1)。
これは生分解性の良い一般有機物と同等のレベルです。
1) 環境年報 Vol.35 2010 年度版(日本石鹸洗剤工業会)
⇒さらに詳しく : 生分解とは
食物残渣や洗剤中の界面活性剤など、有機物が水中の微生物によって分解されることを「生分解」と言います。この過程で有機物は、微生物の体内に取り込まれ、微生物の細胞構成成分の一部として資化(同化)されたり、エネルギー源として利用されたりします。生分解が進んでいくと、最終的に無機物である水や二酸化炭素などになります。
排水が直接河川などに放出された場合は、河川水、湖沼水および海水中の微生物によって、また、下水処理場で処理される場合は、下水処理場の活性汚泥中の微生物によって有機物は生分解されます。容易に分解されればされるほど環境中に留まりにくく、水生生物などに影響を与える可能性も少なくなると考えられています。

河川や湖などの自然界には、汚れ(有機物)が流れ込んでも、流れていくうちに薄まり、細菌類や微生物により分解されて徐々に汚れがなくなる自浄作用があります。
家庭用洗剤中の主要成分である界面活性剤には、生分解されやすい成分が使われているので、自浄作用により河川水中で分解します。河川水中での界面活性剤の半減期(初期濃度が半分になる時間)は、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)が数時間から数日1)、AE(ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル)が数時間2)と確認されています。
しかし、洗剤が生分解するからといって河川や湖に家庭雑排水を直接大量に排出することは好ましくありません。下水道が普及していない地域では、戸別に合併浄化槽を備えるなど、排水の汚染レベルを下げてから排出することが大切です。
1)直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)の水圏生態リスク評価 水環境学会誌 33,1-10(2010)(日本水環境学会)
2)環境年報 Vol.31 2006 年度版(日本石鹸洗剤工業会)
次の①〜④のような調査を行って、問題のないことを確認しています。
① 環境モニタリング調査
2001年に化学物質排出把握管理促進法(化管法)が施行されたことを機に、日本石鹸洗剤工業会と日本界面活性剤工業会は、PRTR制度の第一種指定化学物質に分類されたLAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)、AE(ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル)、DHTDMAC(ビス(水素化牛脂)ジメチルアンモニウム=クロリド)、AO(N,N-ジメチルドデシルアミン=N-オキシド)の4種の界面活性剤の河川水中濃度を調べ、水環境の生態系に影響を及ぼさないことを確認するモニタリング調査を行なっています。
試料は、多摩川の羽村堰、多摩川原橋と田園調布堰、荒川の笹目橋と治水橋、江戸川の金町、淀川の枚方大橋の4河川7箇所において年4回(原則として、3、6、9、12月)の頻度で採取しました。これらの調査地点は、都市域を流下する河川の水質類型A〜Cに該当します。
採取された試料中の各界面活性剤濃度は、いずれも非常に低い値でした1)。
各界面活性剤の河川水中濃度測定結果(1998-2010年度)(μg/L)

ND: 不検出 不検出検体は検出限界の1/2の値として幾何平均、95パーセンタイルを算出、NA:測定せず
1)第46回日本水環境学会年会(日本石鹸洗剤工業会)
nd: 不検出 不検出検体は検出限界の1/2の値として幾何平均、95パーセンタイルを算出
② 代表的界面活性剤の生態リスク評価
日本石鹸洗剤工業会では、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)、AE(ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル)、DHTDMAC(ビス(水素化牛脂)ジメチルアンモニウム=クロリド)、AO(N,N−ジメチルドデシルアミン=N−オキシド)の環境に及ぼす影響について河川モニタリング調査の結果を基にリスク評価を実施しました。その結果、河川濃度は水生生物に影響を及ぼす濃度より低いことが改めて確認されました。これらのことより、家庭で使用する通常の条件下では、生態系に影響を及ぼすリスクは極めて小さく、安心して使用できると考えております。
モニタリング結果から明らかになったわが国の河川水中の各界面活性剤濃度は、水生生物に対する無影響濃度1,2,3,4)よりも低く、生態リスクは小さいことが分かります5)。
予測無影響濃度と界面活性剤濃度測定結果概要
nd:不検出 不検出検体は検出限界の1/2の値として幾何平均、95パーセンタイルを算出
1)山本昭子、西山直宏、吉田浩介、山根雅之、石川百合子、三浦千明直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)の水圏生態リスク評価. 水環境学会誌, 33, 1-10(2010)
2) Feijtel, D.J. and E.van de Plassche, Environmental risk characterization of 4 major surfactants used in the Netherlands, RIVM/NVZ report No.679101025,(1995)
3)
日本石鹸洗剤工業会, 界面活性剤の人健康影響および環境影響に関するリスク評価,(2001)
4)
日本石鹸洗剤工業会, アミンオキシドのヒト健康影響と環境影響に関するリスク評価結果について,(2010)
5) 環境年報 Vol.36 2011年度版(日本石鹸洗剤工業会)
③ ゼオライトの環境への影響
ゼオライトは「アルミノけい酸塩」という物質で、自然界に広く存在する鉱石の一種です。古くから、ろ過などの水処理剤として使用されている安全性の高い物質で、自然環境中に広く存在し、河川水中にも常に流入しているものです。
ゼオライトを洗剤の洗浄補助剤として配合する際に、水環境に対する負荷・安全性の研究が十分に行われ、水環境に影響を与えないことを確認しています。
④ 蛍光増白剤の環境リスク評価
一部の衣料用洗剤に配合されている蛍光増白剤は、環境に放出された場合、日光の照射によって光分解され、この分解生成物は引き続いて微生物の作用を受けて分解されることが確かめられています1)。
全国の公共用水域で推定される蛍光増白剤の最大濃度は、水生生物に影響を及ぼすと推測される最小濃度より低いことから、河川水中で生態系に影響を与えるリスクは低いと考えています。
1) HERA(Human & Environmental Risk Assessment on ingredients of European householdcleaning products)によるリスク評価書
Substance: Fluorescent Brightener FWA-1(CAS 16090-02-1)(2004)
http://www.heraproject.com/files/23-F-04-HERA-FWA1(Version%203_1%20).pdf
Substance: Fluorescent Brightener FWA-5(CAS 27344-41-8)(2003).
http://www.heraproject.com/files/11-F-04-HERA%20FWA5%20Full%20web%20wd.pdf
⇒さらに詳しく :蛍光増白剤のヒト健康影響と環境影響に関するリスク評価の結果について[pdf]