花王は、さまざまな人が日常用いる製品のメーカーとして、これまでも“よきモノづくり”を追求してきましたが、これからの超高齢社会によりよく対応していくために、UDは有効な手段だと考えています。具体的な取り組みの例を、当社のUD指針にそってご紹介しましょう。
▼ 指針1.人にやさしいモノづくり
誰もが、ふつうにわかりやすく、ふつうに使いやすく、安心して使っていただけること、これは製品の基本です。しかし店頭では、見た目の似通った製品が増え、識別しづらくなっています。柔軟剤なら、“素肌に優しい”というコピーよりも、これは柔軟剤だと、先にわかることも大切です。製品ごとに用途の表示方法や位置がバラバラで、伝わりにくかったところは、2010年にルールを決めて改善しました。使う人は意識していなくても、自然とわかる、ふと気づけば便利に使えている、そんな製品を増やそうとしています。
▼ 指針2.「うれしい」をかたちにするモノづくり
便利さだけではなく、製品を使う先にあるうれしさをつくり出すための指針です。消費者窓口に寄せられる製品へのご要望は、欠陥ではないけれどちょっと不便、というものが大半です。たとえば、洗剤を詰め替えるときに中身を少しこぼしてしまう、といったこと。上手に注ぐことができる容器に改善すれば、「うれしい」と感じていただけるのではないかと考えます。また、障がい者の方が使いやすいモノもUDに含まれますが、思い込みで押し付けず、本当に欲しいのはどういうモノなのか、よく考えてみる必要があります。
▼ 指針3.人や社会とつながるモノづくり
あるご高齢の女性から、こんな感想をいただきました。自分は年をとって身体の自由がきかなくなり、息子夫婦と同居をはじめたが、家事を手伝いたくてもできることがなかった。でも床掃除用のクイックルワイパーなら少しの力で使えるので、自分の役割ができてうれしかった、というものです。1994年発売のこの商品は、特に高齢者を意識して開発されたものではありませんが、生活に密着した製品は、暮らしのなかで人の手助けができるという好例です。人は、いろいろなモノを使いますが、人とのつながりや社会との関係性をよくしたい、そのための道具として、使っているのだと考えています。
広くはソーシャルインクルージョンの視点で
こうしてみても、UDは特別なことではないのです。UDを広く捉えると、ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)という、多様な人々を包みこみ共に助け合う社会にも通じていきます。そうした広い視点や気付きが得られるよう、商品を開発する社員が、高齢者がふだん感じている不便さを実感できるよう、特殊な装具をつけて疑似体験することも行なっています。誰でも年をとると、体力や運動機能が劣ってきて、それゆえモノの見方や使い方が変わってきます。その変化の中に、わかりやすさや使いやすさへのニーズが現れていると考えれば、製品のアイディアやUDの可能性も、広がっていくのではないでしょうか。
(生活者コミュニケーションセンター センター長 登坂 正樹さん 談)
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