当工業会 技術委員会の主催により、竹田 宜人さんの講演『With コロナとSDGs/サステナビリティ社会における リスクコミュニケーション』が2021年12月3日にオンライン形式で実施されました。講演では最近の話題を中心に、関連する法令や実際の事例を多数引用しながら詳細な解説が行なわれました。ここでは内容の一部を抜粋・編集して掲載します。

竹田 宜人さん:事業者や工場と地域住民の対話を研究・実践するリスクコミュニケーションの専門家。2020年から北海道大学大学院 工学研究院 勤務。
■リスクコミュニケーションは社会活動として一般化
リスクコミュニケーション(以下リスコミと略記)とは、リスクにかかわる情報を行政・専門家・企業・市民などのステークホルダーが共有し、“双方向の対話”で意思疎通をはかることです。リスコミが欧米から日本に導入されたのは、化学物質管理にリスクの考え方が取り入れられた 2000 年頃で、1950〜70年代の公害の反省も踏まえ、事業所からの化学物質の排出について行政や事業者が住民に向けた説明を行なうようになりました。事後対応だけでなく、地域の将来リスクに備えた対話を行なうことが、公害の時代と大きく異なっています。法令にもその必要性が記載されることで※1、リスコミが社会活動としてより一般的になり実施マニュアルなども整備されてきました。さらに、近年、自然災害の深刻化を背景に、化学物質を扱う事業者が平常時から地域防災の観点でリスコミに取り組む重要性が増しています。加えて、SDGs(持続可能な開発目標)の環境対策に係る行動目標に “地域との対話” が含まれるなど、国際的にもその重要性が再認識されています※2。
※1:一例として化学物質管理促進法の第四条には、事業者の責務として、「指定化学物質等取扱事業者は(中略)その管理の状況に関する国民の理解を深めるよう努めなければならない。」とあり、 このほかに指針・マニュアルなども示されています。
※2:SDGsの例として目標6のターゲットには、「6b:水と衛生に関わる分野の管理向上への地域コミュニティの参加を支援・強化する」とあります。
■実践では話題の多様性を受け止めることが重要
事業者にとって、地域住民との対話が必要であることは明らかですが、実践についてはまだ課題があります。まず、リスコミは“双方向の対話”が原則です(表1参照)。しかしリスコミを主催する事業者側からよく聞かれる悩みに、「リスクがあっても、科学的に安全ですよと伝えて安心して戴きたいが、参加者はそれだけではない多様な価値観から、様々な意見を持っている」ということがあります。これは事業者側がその背景には「科学だけでは答えられない課題がある」と理解するべきで、ステークホルダーの様々な価値観や思いからの多様な反応や異なる意見にも耳を傾け、受け止めて欲しいと思います。リスコミに必要な対話力の向上には、対話における質疑応答を想定した演習などを通じて学ぶのも有効です。
■コロナ禍で試される対面以外のコミュニケーション
コロナ禍における新たな課題は、対話の機会をどのように確保するかです。私が関わった2020年8月〜9月頃の調査では、従来実施していた地域住民との対面式の対話集会や工場見学、お祭りなどをほとんどの事業者が中止・延期したことがわかりました。しかし、「コロナ対策として地域住民への情報提供や対話の工夫を行なったか?」との問いには約7割が「特にしていない」と答え、したと答えた事業者も、文書の配布や戸別訪問による説明にとどまっていました。それから1年以上が経った今では、オンラインの地域対話やバーチャル工場見学などを始めた事業者も出てきています。このコロナ禍で大切なことは、ステークホルダーと、どんな場所でどのような関わりがもてるのかを想像することです。他業界の動きなども参考にしながら、ハイブリッドの対話集会やホームページ、SNSでの情報提供など、様々なメディアを利用した対話の機会を構築し、改めて対話の目的を捉え直す機会にしていただければと思います。