石鹸や洗剤などには汚れを落とす機能をもつ界面活性剤が使われていますが、これらの成分は生分解性が高いもので、環境中に排出されたときに自然に分解されます。また、水生生物への影響も極力少ないものが使用されているのです。
このことを、実験室だけでなく、実地のデータに基づいて検証するために、日本石鹸洗剤工業会の環境保全委員会では、1994年後半から代表的な陰イオン界面活性剤であるLASと、陽イオン界面活性剤であるDADMACについて、環境モニタリング調査をおこない、その結果を公表してきました。この調査は、環境省環境濃度調査地点からいくつかの河川の採取地点での試料を分析するものです。
◆AEが多く使われるようになった
近年はアルコールエトキシレート(AE)という、比較的新しいタイプの非イオン系界面活性剤が多く使われるようになりました。家庭用品品質表示法で「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」と表示されるものです。そこで、これについても環境モニタリング調査をすることにしましたが、実はAEあるいは非イオン界面活性剤の環境濃度については、その測定法に問題がありました。これまで一般に使われていた比色分析法(CTAS)では、AEだけを分けて測ることはできず、しかも定量下限という計れる最低濃度が高く、かつ分析する水の中で妨害物質の影響を受けやすいため、結果は出るもののその信頼性には問題があったのです。
◆信頼性あるAE環境調査方法を開発
この問題を解決するために、環境保全委員会の水環境影響評価ワーキンググループでは、研究の結果液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)を用いることにより、AEを高感度で正確に分析する方法を開発することに成功しました。
その後、1998年から3年にわたって、財団法人化学物質評価研究機構に分析を委託して、継続調査を進めてきました。目的とする物質を選択的に検出することができ、μg/L(ppb=1/1000ppm)の単位でも充分な信頼性が得られるこの方法は、生態系のリスクアセスメントをおこなううえで非常に有用であることが証明されました。この分析法は、2000年9月に開かれた第3回日本水環境学会シンポジウムで発表し、大きな関心を集めました。
さて、その調査の結果はどうだったのでしょうか。
まず、水質調査のための試料採取地点としては、利水目的として「水産」がうたわれている水域であること、環境類型(環境庁が「この川のこの場所はこういう環境であって欲しい」という望ましい基準ランク)がAからCに分類される水域で、そのなかに上水道水源を含むことを配慮して選定したのが、浄水場の取水点である多摩川・羽村堰と江戸川・金町取水点および淀川・枚方大橋も含めた5か所です。
河 川
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地点
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環境類型
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資料数
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AE(μg/L)範囲
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AE(μg/L)平均
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LAS
(μg/L)
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BOD
(mg/L)
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多摩川
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羽 村 堰
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A
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8
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0.15 〜1.8
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0.73
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3.2
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2.0
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多摩川
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田園調布堰
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C
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8
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0.36〜4.9
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2.0
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12.1
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2.8
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荒 川
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治 水 橋
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B
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8
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0.48〜4.3
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1.8
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23.5
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2.3
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江戸川
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金町取水口
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A
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8
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0.36〜5.3
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2.2
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18.3
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2.8
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淀 川
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枚方大橋
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B
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4
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0.70〜12
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4.3
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6.0
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3.0
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(注:1mg/L=1000μg/L)
◆AE濃度は非常に低い
これらの地点で調査の結果、測定濃度には一年の間に若干の変化があり、夏が低くて冬が高いことがわかりました。これは、環境中でAEが分解するスピードが夏と冬で違うことのほか、降水量が違うとか いろいろな現象をすべて含んで現れた結果、ということができます。実際に環境中で起きている結果を反映したものです。
測定数値の評価は、「環境中のAE濃度は非常に低かった」、「水生生物に影響が表れないという基準よりもはるかに低かった」ことが確認されたのです。
では、何を基準にそういう判断ができるのでしょうか。AEという物質について、水生生物にたいする影響を考察した学術的な論文は、実は世界中に非常にたくさんあります。オランダの環境省(VROM)ではアメリカのSDAの協力で、これらの資料を分析整理し、水生生物に影響が現れない濃度数値として発表しています。これはあくまでも学術的な研究結果のまとめで、規制数値として定められたものではありません。
◆上水の泡立ちの面も問題なし
その数値が、110μg/Lなのです。今回調査のAE環境濃度は、表のように地点によって少し異なりますが、実際に検出された濃度は0.15〜12μg/L、地点ごとの平均も0.72〜4.3μg/Lとなっています。
また、水道水における非イオン界面活性剤の発泡限界濃度は、50μg/Lとの研究発表がありますので、上水の泡立ちの面からも問題がないことがわかります。
このように、実際の河川中から検出されるAEの環境濃度は非常に微量であり、LASと比べても一桁低いものでした。これは、小さな魚やミジンコなど水生生物が影響を受けない範囲、とされる濃度よりはるかに小さいものです。
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