■なぜ石洗工がリスク評価をしたのか |
蛍光増白剤の安全性については、1976年にメーカー団体である化成品工業会が発表し、2004年3月にはその補追も出ています。今回、当工業会が改めて蛍光増白剤のリスク評価をした理由は、洗剤という最終製品をつくっているメーカーでなければ把握できないデータがあり、それを基にリスク評価をする必要があったからです。 洗剤メーカーが、製品の中に何%配合しているか、日常の洗濯でどのくらいの濃度で洗濯しているかといった実態が、リスク評価を行なううえで重要な情報となります。ですから、使用の実状に則したリスク評価は、商品をつくっているわれわれしかできないと考えています。 |
■なぜ今このタイミングなのか |
化学物質の安全性を再確認しようという動きは、世界的な潮流となっています。なぜ今このタイミングかという点については、ヨーロッパでHERA(Human andEnvironmental Risk Assessment)のリスク評価書が出た、ということがきっかけになっています。ヨーロッパでは、1999年に石鹸洗剤の業界と化学物質の業界が協働して、化学物質の安全性に関してリスク評価を行なうHERAという自主的な取り組みを始めました。洗剤に使ういろいろな化学物質のリスク評価をしていますが、当然ながらこれはヨーロッパでの洗剤の使用状況、ヨーロッパの河川水の分析を基にしたものです。 われわれとしては、HERAのリスク評価書にとりあげられている有害性のデータを活用して、ヒトへの暴露とか環境濃度を日本の条件に照らし合わせてみた場合にどうなのか、ということを調べたわけです。 日本でもヨーロッパと同じく、洗剤に使われている代表的な蛍光増白剤は、FWA-1とFWA-5という二種類です。日本では、年間約14,000トンくらい蛍光増白剤が使われており、衣類用洗剤は各300トンと見積もられています。 そこで、法律がどうとか義務づけられたからとかいうのではなく、あくまでも自主的に、メーカー・業界の責任として、そのリスク評価を行なったということです。 |
■健康影響と環境影響についても |
安全性を考える場合には、その物質の有害性をしっかりと確認することが必要です。そのうえで、その物質がどれだけ体の中に入るかを調べ、この量と何らかの有害性が生じる量とを対比してみなければなりません。 体の中に入る量が少なければ、実際にはヒトに何の問題も起きません。それを調べるのが健康影響評価です。 環境に関しても、蛍光増白剤が日本の河川に、極めてわずかな量ですが存在することは、調査地点の分析値からわかります。けれども、調査地点での濃度だけではなく、その濃度を元にして日本全体で考えたときに、どれだけの濃度で蛍光増白剤が環境中に存在するか、ということを考察しておきたい。長年にわたって河川中の界面活性剤をモニタリング調査している当工業会では、こういう化学物質で、このくらいの水質ならこのくらいの濃度になるだろうという推察ができるのです。 こうして、蛍光増白剤のヒトの健康と環境影響に対するリスク評価ができたということです。 |
■リスク評価の結果はどうなのか |
その結果、一言でいえば「蛍光増白剤のヒト健康と環境へのリスクは低い」という結論が得られました。リスクは低いので、蛍光増白剤の入っている洗剤を使っても、ヒトの健康に影響はありません。また、環境中の生物に対しても、何の影響も及ぼさない、と言えます。 ところが、「リスクが低い」というと「やっぱりリスクはあるんですね」というふうにとらえる向きがありますが、それは違います。「リスクは低い」ということは、『普通に使っているときにはなんの問題もありません』ということなのです。 安全性を評価するには、考えられる最悪のストーリーを想定しています。たとえば、実際には皮膚を通して入る量は0.1%程度と極めて少ないのですが、われわれのリスク評価では、それが100%体に入ったとの仮定で考えます。たとえその全部が皮膚から吸収されたとしても安全というくらい、非常に厳しくみているのです。 |
■安全率でみるということは |
安全性をはかるには、安全率という考え方があります。蛍光増白剤は毎日の洗濯で使うものですし、ヒトに対する長期的な影響を評価しなければいけません。そこで、慢性毒性試験から得られた、動物になにも影響がみられない量と、実際にヒトの体の中に入る蛍光増白剤の量とを比較します。このときに、安全率を掛けてみます。 まず動物とヒトの種差が10倍あると考えます。さらに、ヒトでも感受性の違いとかいろいろな個人差もあるので10倍、両方かけ合わせて100倍というのが基本的な安全率の考え方です。つまり、動物に対してなにも影響が出ない量、その100分の1の値をもって、これ以下であればヒトに対してもなにも影響が出ないだろうと推定しているわけです。 また、環境影響については、国内の河川中の濃度と、水生生物の毒性試験結果から予測される無影響濃度とを比較して安全性を評価しています。 |
■蛍光増白剤への誤解の数々 |
いまだに、“蛍光増白剤には発ガン性がある、その可能性がある” という誤った情報が使い回されています。これは、今から40年近く前のドイツでの実験結果に端を発しています。いろいろな再現実験をし、またその最初の実験者自身も再実験をした結果として、実際には発ガン性はなかったと否定されているものです。 昔、洗剤反対運動のなかで、ブラックライトを照射して不安感を煽るという手法が、盛んに使われてきました。そんなこともあって、こういう誤解がいろいろな形で引き継がれ、増幅されてきたということがあるようです。その構造がガン原性物質と似ているからとか、食品添加物として認められていないからとか、医療用具の包帯・ガーゼなどに使われてはいけないからとか、さまざまな誤解はあちこちに波及し、しみついてしまったものです。 食品添加物というのはもともと食品を加工したり保存したりするときに意図して使うものですから、このような使い方をしない蛍光増白剤は、食品添加物として認可を受けていないのです。 医療用具の包帯とかガーゼに蛍光増白剤が入っていてはいけないというのは、リサイクルした衣類を包帯やガーゼを作るときに使ってはいけない、という理由からです。白物衣類には蛍光増白剤が使われていますから、これらの衣類が混入されていないことを確認するために、そういう規格ができたのです。 |
■なぜ蛍光増白剤を使うのか |
では、蛍光増白剤をなぜ使うのでしょうか。もともと白い衣類は、製造された時点で蛍光増白剤で処理されています。ところが、洗濯したときにだんだん落ちていってしまうので、それを補完するために洗剤に入れているのです。生成りの風合いを大切にされたいときは、蛍光増白剤を入れていない洗剤もありますので、そのような洗剤を使っていただければいいでしょう。 省エネ・省資源で、リサイクルしましょうといったときに、同じ衣類を何度でも着られる、衣類の寿命を延ばすという意味でも、蛍光増白剤には非常に大きな役割があるのです。(談) (2008年1月から環境・安全専門委員長は大寺基靖氏に交代しました。) |
2007年10月に公表された「蛍光増白剤のヒト健康影響と環境影響に関するリスク評価」の全文は、こちらからPDFファイルをダウンロードできます。 |