日本石鹸洗剤工業会(JSDA)
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2017年3月15日更新
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*油脂製品部会 海外調査団 2016


●海外調査団2018
●海外調査団2016
●海外調査団2014
●海外調査団2012

●海外調査団2010

米国における油脂産業の動向調査

〜油脂製品部会 第10回 海外調査団報告〜


2017年CLEAN AGE249号に掲載
油脂製品部会の活動についてはこちら-


<はじめに

 油脂製品部会では、油脂産業の動向調査とメンバーの交流を目的として、2年毎に海外調査団を結成し派遣しています。
 第10回は、角藤淳リーダー(ミヨシ油脂株式会社)を中心に計8名が、2016年9月13日から19日の日程で米国を訪問し、油脂産業の動向調査を行ないました。
 米国には2005年に第4回調査団も訪問しており、当時問題となっていたBSE問題、その後急増するバイオディーゼル燃料(BDF)を中心に調査、報告されています。
 米国では、世界的に主流となっているパームやヤシなどの植物系原料は、日本と同じく東南アジアに依存している状況です。一方で、酪農が盛んであり、牛脂を中心とする動物系原料は国内での生産が主となっています。
 グリセリンは脂肪酸製造時、油脂の分解により副生しますが、米国において近年生産量が急増しているBDF生産時にも副生する事から、その用途開発が懸案となっています。
 BSE問題発生以降、日本においては牛脂など動物油脂原料の用途は一部限定されていますが、米国の状況には興味が持たれるところです。
 又、米国は藻類由来油脂に関しても、実用化という面で最先端を走っており、今後パームなどの天然由来油脂の代替になり得るかなど、その動向は注視していく必要があると思われます。
 こうした状況と2005年との比較を中心として、以下の3点に関して調査を行ないました。
1.油脂原料、脂肪酸、グリセリンの状況
2.油脂原料由来の川下製品の動向
3.藻類由来油脂の最新動向調査

訪問先と調査目的:

訪問先 調査目的
MITSUI & CO.(USA),INC. 石化原料と油脂産業の動向調査
藻類由来油脂の最新動向調査
American Cleaning Institute 油脂産業全体の動向調査
石鹸、洗剤のトレンド調査
Kao USA 石鹸、洗剤のトレンド調査
工場見学
Emery Oleochemicals 脂肪酸、グリセリンの動向調査
工場見学
Terra Via(旧Solazyme) 藻類由来油脂の最新動向調査
パイロットプラント見学
市場調査(スーパーなど) 石鹸、洗剤、トイレタリー製品の調査


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1. 油脂原料、脂肪酸、グリセリンの状況

 東南アジアで生産されるパーム油、パーム核油、ヤシ油などの植物油脂原料が世界的に主流となっている中、米国では牛脂が非常に重要な位置を占めており、原料としても未だに主流です。
 BSE問題以降も、牛脂の安全性に関しては一定の基準を設ける事で、問題なく使用されています。
 日本同様、植物油脂原料を持たない米国で、未だに牛脂が主原料として使用される理由としては、日本とは異なり、BSE問題発生以降も消費者が香粧品、トイレタリー関連製品においても牛脂由来原料を敬遠していない事に加え、政府が牛脂の取り扱いを推奨しており、海外から輸入するパームなどに対して関税をかけるなど税制面で優遇している事などが挙げられます。
 一方、食品用途はほぼ植物由来品が使用されており、一部香粧品においてもイメージやコーシャ対応などの点から植物系へとシフトして来ています。
 米国の脂肪酸生産量は約90万tと2005年時の調査と大きな変化はなく、その使用原料における動物油脂比率では、7〜8割となっており、米国の大手脂肪酸メーカーの多くは、牛脂を原料としています。
 米国の精製グリセリン生産量は約50万tであり、脂肪酸製造時由来に対して、この10年間で生産量が10数倍と急増しているBDF由来品の割合が約80%と多い。最近では、BDF由来品も品質面が向上、USPグレードが販売される様になって来ています。
 2005年調査時から懸案であったグリセリンの新規用途ですが、石油化学品に変わるプロピレングリコール原料や不凍液、航空機用防除雪液等で大量に使用される様になって来ています。

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2. 油脂原料由来の川下製品の動向

 油脂原料由来原料を使用した川下製品として、洗剤(衣料用、台所用)、トイレタリー関連(シャンプー、ボディーソープ、石鹸等)分野で、数多くの製品が販売されています。2003年のBSE問題顕在化以降、日本においては、トイレタリー関連製品では牛脂由来原料の使用は敬遠されています。しかしながら、牛脂大国である米国では、そのような考えはなく、FDA(米国食品医薬品局)で管理されている規格を満たしていれば、問題なく使用されています。
 一部のベジタリアン、コーシャ等から植物由来のみを使用した製品の需要はでてきているものの、人口の10%程度でありまだまだ少なく、価格面からも牛脂ベースの原料が主流となる事に変わりはないと思われます。
 米国では上述した通り、牛脂由来原料を使用している割合が多いが、一部の企業では植物由来の油脂も使用しています。特にフェイスケア関連では植物由来原料使用率を100%とする方針の企業も確認出来ました。植物由来原料を使用するメリットとして、コーシャ、ハラルなどに対応出来る事、安全性・健康的・清潔感など植物から連想されるイメージの良さが挙げられます。また、動物由来原料と併用する事で、価格面や供給安定性に柔軟性が出る事もメリットです。

2-1.トイレタリー製品・洗剤の調査

 米国でのヘアシャンプーに関して、消費者の髪に関するトラブルや求められる商品コンセプトとしては、ダメージケア、ボリュームアップ、縮れ毛予防がキーワードとなっています。店頭で多く陳列されているヘアシャンプーの主たる成分としてはラウレス硫酸ナトリウムとコカミドプロピルベタインでした。一方、アルガンオイルやココナッツオイルなどの天然オイルが配合されたヘアシャンプー/ヘアコンディショナーを取り扱う店舗も見られ、そのような商品にはSulfate Freeという文言も記載されている傾向にありました。また、配合されている成分としては、ラウロイルサルコシンナトリウムなどのアミノ酸系界面活性剤やアルキルグルコシドなど、天然系の界面活性剤が配合されている事も確認でき、米国内でのニーズもあるという事を認識しました。
 ボディソープは複数のブランドがあり、固形石鹸は少ない印象でした。また、米国は乾燥しやすい気候の為、ボディソープの多くには「MOISTURE」や「MOISTURIZING」と書かれていました。特に、有名ブランドの第一成分として「PETROLATUM」が配合されている点も興味深いと思われました。尚、一部、脂肪酸が配合されている商品も見られましたが、ほとんどがAESなどの界面活性剤系であり、日本の様な脂肪酸系の液体身体洗浄剤は少なく、更に、米国でのボディソープに関しては、固形石鹸から液体石鹸に移行しており、固形石鹸の生産量は10年前と比較して激減していました。
 また、ボディケアに関しては、米国ではボディローションの需要が非常に高く、日本のスーパーマーケットでもボディローションは陳列されていますが、米国ではボディローションのラインナップがより充実していました。更に、どのブランドにおいてもポンプタイプのボディローションのシリーズが多く見受けられました。米国は日本と比較して非常に乾燥しやすい気候である為、ボディローションのニーズが高くなっているようです。
 食器用の洗剤としては日本と同様に液体タイプが主流でした。しかし、日本で主流となっている濃縮タイプのものは無く、ボトルの大きな物が多く見られました。また、商品の裏面には「Contains no phosphorus」という記載がされており、“リン”を敬遠している事がわかりました。食器用洗剤としては液体タイプが多いがタブレットタイプの商品も販売されており、その中には液体と粉体が詰められていました。
 衣料用洗剤は液体洗剤(非濃縮)が約7割でメインであり、粉洗剤はほとんど見られませんでした。一方で液体タブレット型の洗剤が棚の上段に並べられており、約3割を占めていました。商品の訴求点は液体洗剤、液体タブレット洗剤ともに、通常の洗浄力の他に、香り、肌へのマイルドさ(アレルゲンフリーなど)、手軽さ、環境負荷低減(無リン)などでした。

2-2.まとめ

 米国では、日本のようにトイレタリー関連製品に牛脂由来原料は使用しないという考え方はありません。その理由の一つとして政府による税制面での優遇が挙げられます。また、一部のベジタリアンやコーシャ等から植物由来製品の需要があるものの、人口の10%程度でありその割合はまだまだ少ない事も、牛脂由来原料から植物油脂原料に切り替わらない理由と考えられます。

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3. 藻類由来油脂の最新動向調査

3-1.世界におけるバイオマス産業の発展とその経緯について

 1970年代以降、原油価格乱高下に伴う生活不安や石油資源枯渇への危機感、また地球温暖化ガス削減をはじめとした環境意識の高まりなどを背景に、石油依存の状況を脱却し、バイオマス資源の活用を進める動きが世界中で広がりました。しかしながら食糧との競合・サステナビリティなどの根本的な課題は十分に解決できていません。
 1990年代には非可食原料の技術開発が推進されてきましたが、プロセス面での課題、生産コストの増加や食糧・環境問題に間接的影響を及ぼすことがネックとなり、商業化には至りませんでした。
 このような状況下、2000年代以降、次世代バイオマス資源の一つである微細藻類の活用に向けた開発が進められました。微細藻類とは水中に生息する光合成生物の総称であり、他のバイオマス資源に対して①生産性が高いこと、②化学品原料として転用が容易であること、③季節変動による影響がないこと、④食糧と競合しないこと、⑤光合成のCO2固定化能力が高いこと、など大きなメリットを持つことから注目が集まっています。
 米国では2000年代以降、中東地域への原油依存からの脱却、外交政策上の優位性確保などの思惑から、潜水艦や航空機への燃料として微細藻類を利用するプロジェクトに注力してきました。その一環として、ベンチャー企業と石化メジャー企業が積極的にJV(ジョイントベンチャー)を組み、急速な技術開発が行われました。
 しかし2010年以降、米国を中心としてシェール革命が起こり、石化の需給バランスが崩れた結果、世界の石油価格が下落しました。今回の米国の視察により、シェール革命は、米国に石油を自給自足できる環境をもたらし、それによって米国の中東依存度は減少していることが分かりました。さらに燃料として実用化の目処が立ったことも影響し、微細藻類バイオマスの開発方向性に大きな変化が生じていました。従来は燃料としての用途開発を進めていましたが、直近では採算性を重視した食糧・環境分野、医療・健康分野への用途開発が主軸となってきていることが分かりました。

3-2.米国の微細藻類事業概要と今後の方向性について

米国微細藻類ベンチャーであり、今回の訪問先であるSolazyme(旧)は2016年3月にTerra Viaに社名を変更しました。原油価格の下落による事業環境の変化が最大の要因で、社名変更に伴い、中核事業を燃料開発などの工業用途向け油脂の開発から、Food、Nutrition、Specialty ingredients(食・栄養・機能性素材)にシフトしていました。
 Terra Viaで製造可能な藻類由来油脂は、偶数鎖かつ直鎖の油脂で、C8〜C18およびC22のアルキル鎖長が含まれます。こうした技術を用いて、パーソナルケア・食品向け製品をラインナップしており、一部品目は川下企業と提携していることが発表されています。確実な販売先を確保して事業を推進する姿勢が見られました。
 一方、新規原料としての安全性が懸念されますが、一部製品については米国内でのFDA(米国食品医薬品局)認証を取得済みであり、今後その他製品に関してもFDA認証の取得を予定しています。また非可食原料であるセルロースを用いた油脂製造技術は進んでおらず、生産効率の良いサトウキビ・コーンなどの糖源を用いて油脂を生産するため、食糧との競合という課題は依然として未解決であることが分かりました。

3-3.まとめ、所感

 今回の訪問から、藻類油脂の開発は今後も高付加価値なパーソナルケア・食品分野を中心に進展するものと推測されました。一方で、生産コスト・生産キャパシティの観点から、PKO・CNOなどのラウリン系油脂が藻類油脂に代替される可能性は低く、今後も天然原料の東南アジア依存型の構図は大きく変化しないと思われます。しかし、藻類油脂は鎖長調節が可能なことからC8-10の低留系やC18以上の長鎖アルキルなどの希少留分のみを選択生産する技術が確立されれば、希少留分の需給バランスが改善される可能性があると感じました。

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↑ACI(American Cleaning Institute) にて
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↑Emery Oleochemicals社にて
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↑Terra Via社 試食体験

調査団メンバー : ミヨシ油脂株式会社 角藤 淳(リーダー)、新日本理化株式会社 石橋 義宏(サブリーダー)、株式会社ADEKA 田村 健郎、花王株式会社 西村 哲、川研ファインケミカル株式会社 須田 裕喜、阪本薬品工業株式会社 二宮 康弘、日油株式会社 赤井 玲央、ライオン株式会社 新倉 史也
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