タイ、マレーシアにおける油脂産業の動向調査
〜油脂製品部会・第9回 海外調査団の報告〜
|
<はじめに> |
油脂製品部会では、オレオケミカル産業の動向調査と若手育成を目的として、2年ごとに会員社からメンバーを募り、海外調査団を結成しています。第9回は坪井輝道団長(阪本薬品工業株式会社)をはじめ計8人が、2014年10月12〜18日の日程で、タイとマレーシアを訪れました。
パーム油の主要生産国は、大規模プランテーション中心のインドネシア、マレーシアで、その次がタイです。世界の総生産量は近年、年率5%のペースで増加しており、2014年は約6千万tに達する見込みです。そのうち、マレーシアの生産量は約2千万t、タイは約230万tとそれぞれ見込まれています。また、総生産量の約80%が食用需要、20%が工業用で、新たにバイオディーゼル燃料(BDF)向けの生産も増えています。
パーム油は様々な製品に使用されており、人々の生活と密接に関係しています。そのため、国際的な非営利組織「持続可能なパーム油に関する円卓会議(RSPO)」により、環境に配慮した認証油の生産・利用の拡大も推進されてきました。
こうした状況をふまえ、2010年訪問時からの変化や、RSPO制度の稼働状況、BDF関連の調査に重点を置きました。
訪問先と調査目的:
|
マレーシア - 1: LION ECO CHEMICALS SDN BHD (LECO)
|
2010年から、パーム由来の洗剤原料MES(Methyl Ester Sulfonate)に特化した生産を開始し、世界各国へ販売活動を行なっています。
MESは、1970年代にライオン(株)でLASの代替原料として研究がスタートし、1991年、洗濯用粉洗剤「スパーク」に世界で初めて採用されました。以降、同社の粉洗剤に採用されており、「低濃度で高洗浄力」を最大の特徴としています。
世界的なMESの市場規模は、2014年時点で20万t/年程で、LASの400万t/年に比べると少ないですが、将来的な需要の伸びが期待されているものと推察されます。LECOでは今後もMES市場を牽引することが目標とのこと。
マレーシアの洗濯事情については、ドラム式洗濯機が多く、液体洗剤の需要は20%程度、粉洗剤の需要が大半を占めています。大型洗剤が今後も主流と考えられます。 ▲目次へ |
マレーシア - 2: MPOB (MALAYSIAN PALM OIL BOARD) |
既存機関を引き継ぐかたちで2000年に設立されたMPOBは、マレーシアのパーム産業の振興をサポートする機関です。マレーシアの油脂産業の現状を聞く事ができました。
持続可能なパーム油の生産・利用促進を目的とするRSPO認証制度について、マレーシア政府としては考えるところがあるようです。特に中小の農園はコストの高まりに対応できず不満が高まっているとのこと。政府は課題解決のため、新制度MSPO(Malaysia Sustainable Palm Oil)を2015年から導入することを検討しています。MSPOはマレーシア政府が包括的に認証する制度で、インドネシア政府とも連携をはかり、制度のグローバルスタンダード化を目指しています。また、パーム油だけでなくパーム核油にも適用可能です。
一方、バイオディーゼル燃料(BDF)向けのパーム油生産については、稼働率の改善が課題になっています。BDFは、植物由来の油脂をエステル交換し、脂肪酸メチルエステルにした後、触媒除去などを行なうことで得られます。BDFの燃焼によるCO2排出量は、カーボンニュートラルの考えからゼロとされ、化石燃料の代替として利用されています。
マレーシアのBDFメーカーはライセンス制で、現在の稼働率は約70%に留まります。政府は改善策として、軽油へのBDF混合義務比率を現在の5%から、14年中に7%に引き上げる予定で、将来的には10%への引き上げも示唆しています。BDF誘導体の開発も検討されていますが、思うような進捗となっていないようです。
マレーシアのパーム油農園の面積は上限に近いことから、農園拡大・収率改善に更なる可能性があるインドネシアとの差が広がっています。これについては、マレーシアでも収率向上により生産量アップが可能と考えているようでした。
▲目次へ |
マレーシア - 3: Sime Darby Plantation Sdh.Bhd
|
Sime Darby社は世界最大のプランテーション会社の一つで、世界のパーム油量の5%を生産しています。1917年に開始したプランテーションを主体に事業を展開しています。
農地はマレーシア、インドネシア、リベリアにトータル約87万ha(2010年は約63万ha)保有し、うち約53万haがパーム耕作地です。農地拡大を継続し、2013年にリベリアでのパーム栽培を開始しています。パーム及びゴムの耕作地は減少しているが、収率向上により、それらの生産量は増加しているとのことでした。
また、保有する農園・搾油工場62か所で、ほぼ事前の予定通りにRSPO認定が完了していました。Sime Darby社のRSPO認証油の生産量は、年間200万t以上です。
プランテーションでは、収率・コスト低減のための施策として、農薬等を使用せず、菌や食虫植物等を利用したり、植樹を行ない、パーム採取後の木をその場で燃やさず伐採し肥料へ転換したりと、サステナビリティを実現するための様々な努力がみられました。
▲目次へ |
マレーシア - 4: Emery Oleochemicals(M)Sdn Bhd (EOM)
|
EOMの事業はオレオケミカル全般にわたります。株主変更に伴って、同社の考え方は前回訪問時から大きく変わっており、拡大路線が強まりました。これまで販売していなかった先進国及び新興国地域(中国及び日本含む)、新規販売先へ拡販を行なっています。
RSPOへの対応方針も、2010年時は認証油を使用する予定はないとの返答でしたが、現在はドイツ・マレーシアの工場で認証を取得、今後も対応を考えていくとのことです。
ここ数年、他のオレオケミカルメーカーの新増設もあり、川上製品の競争が激化しています。そのため同社では特に、アメリカでのエステルプラントの新設、マレーシアでの界面活性剤設備の新設など、誘導体の開発により川中から川下への展開を強めています。
▲目次へ |
タイ - 1: Thai Fatty Alcohol Company Limited (TFA) |
タイ石油公社(PTT)グループの化学部門の中核をなすタイ・オレオケミカルズ(TOL)の100%子会社として2006年に設立されたTFAは、タイで初めての高級アルコール製造会社です。年間100千tのFatty alcoholを製造しており、グループ内ではメチルエステルやグリセリンも製造しています。
タイでは中小規模のパーム農園が主ですが、国内生産量が2010年の実績130万tから、2014年には230万tの見込みと大幅に増加しています。政府はパーム油生産に力を入れており、従来はタイ南部に集中していた農園も、品種改良や温暖化により、今後は北部へと広がっていくとのこと。2014年現在、タイのパーム農園面積は66万haですが、TOLの推定では、10年後の2024年には104万haに拡大し、生産量も増加すると見込んでいます。
タイ国内の2014年のパーム油の用途別比率は、BDF:45%、食用:45%、輸出:10%です。食用需要は横ばいとなる見通しのため、政府はBDF促進政策によってパーム油の使用拡大をはかっているところです。
▲目次へ |
タイ - 2: VINYTHAI PABLIC CO.,Ltd |
VINYTHAIは、2012年に100%子会社のAdvanced Biochemicalを設立。SOLVEY社から技術を導入し、グリセリン法エピクロルヒドリン(ECH)によるEPICEROL ®を製造開始しました。アジア最大規模の製造能力を誇っています。
グリセリンは、近年BDF製造過程からの副生量が大幅に増加しており、全体の7割弱がBDF由来です。グリセリンの更なる用途展開が求められているなか、その活用法の一つであるグリセリン法ECHが注目されています。
SOLVEY社は、世界有数のECHメーカーでEPICEROL®関連特許を世界で39件取得しており、この独自性が強みです。従来のプロピレン法と比べ同社のECHは純度が高いため、電材用途での需要拡大が見込まれます。
しかし、現在世界的に需要が冷え込み、ECHプラントの稼働状況は良くないとのこと。ECHの主要用途はエポキシ樹脂ですが、競合他社が多く供給過多の状態です。今後は自動車用コーティング向けエポキシ樹脂原料として、需要を拡大していくとのことでした。
▲目次へ
|
タイ - 3: PATUM VEGETABLE OIL CO.,LTD |
1975年設立の、タイにおけるパーム油・ヤシ油精製のトップ企業です。メインの食用油の製造販売だけでなく、BDFを推進する政府方針を見据えてグリーンケミカルへの参入をすすめ、2006年からBDF事業を、2010年からグリセリンの生産・販売をスタートしました。
タイにおけるRSPO制度の対応状況について、話を聞く事ができました。PATUM VEGETABLE OILの推計では、タイ産のパーム油に占めるRSPO認証油の割合は2%以下とのこと。2014年時点で、RSPOに加盟しているタイ企業は31社で、日本の加盟数28社よりも多いです。しかし、タイ国内のパーム農園のうち約8割が零細農園であり、認証取得・維持の費用を捻出できないため、対応は進んでいないのが実情です。タイにおけるRSPO対応は、まだ入り口の段階だということです。
▲目次へ |
タイ - 4: Kao Industrial (Thailand) Co., LTD |
花王(株)のハウスホールド用品の工場として、タイでの生産をスタートし、1972年にケミカル事業を開始しました。界面活性剤のAS、AESやラウリルベタイン、コンクリート混和剤などをメインに、主にタイ及び東南アジア諸国に販売しています。
同社はタイの市場に向け、ヘアケア、スキンケア、衣類洗剤など日本と同様のブランドを展開しています。タイでの成功事例として、「フロアマジックリン」を挙げていました。経済成長が著しいタイでは、居間や台所をタイル張りにする家庭が1990年代より増加。タイ人の好みに合う香りを研究し、花の香りを配合した製品を順次発売しシェアを拡大しました。
タイの洗濯機の普及率は50%程度。残りは手洗いのため、手洗い用衣類洗剤として「アタックイージー」を発売中とのこと。また、タイで柔軟剤は一部の富裕層の使用に限られ、普及していません。他の東南アジア圏の人に比べ、綺麗好き(清潔感を気にする)な傾向があるタイでは、抗菌タイプの衣類洗剤のトレンドも今後出てくる可能性があるそうです。
▲目次へ |
<まとめ・オレオケミカルの現状と今後> |
近年のマレーシア、インドネシアにおけるオレオケミカルメーカーの新増設によって、川上製品(アルコールや脂肪酸など)の競争が激化し、大手企業はより川中・川下(エステルや界面活性剤など)へと製品展開を強めていました。
とくにマレーシアの大手プランテーションは、他社との差別化のためにRSPO認証を取得する傾向があります。農地拡大が難しいなか、RSPO対応をすすめながら収率をあげ、生産量を増加させることに取り組んでいます。
また、タイではパーム油の国内相場が国際市況と比べて高く、競争力が弱いので、大規模な設備を展開しにくい状況です。
|
|
Sime Darby プランテーションにて
|
調査団メンバー:阪本薬品工業株式会社 坪井輝道(団長)、 花王株式会社 高橋哲人(副団長) 、 株式会社ADEKA 遠藤裕之、川研ファインケミカル株式会社 田村壮広、新日本理化株式会社 米山友幸、日油株式会社 石川 潤、 ミヨシ油脂株式会社 井上昌之、ライオン株式会社 守田一将 |
|