油脂製品部会 海外調査団を派遣
フィリピン、マレーシアにおける
オレオケミカルの動向をみる
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日本石鹸洗剤工業会の油脂製品部会では、1〜2年ごとに油脂海外調査団を派遣しています。今回の調査団は、2010年6月、フィリピン、マレーシアの2か国を訪問し、オレオケミカル(油脂化学)産業の動向調査を行ないました。
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オレオケミカルメーカーの現状と今後の動向 |
調査団は、プランテーションから、搾油・精製、脂肪酸・グリセリン、各種誘導体、最終製品を扱う各企業、研究開発を行なう公的機関などを訪問しました。
マレーシアでの調査は、2000年の訪問時以来10年ぶりということで、脂肪酸メーカーの生産能力について10年前との比較を行ないました。生産能力はマレーシア全体でみると約2倍の伸びですが、これ以上のプラントの新設や増設は頭打ちのようです。調査したメーカー9社中、プラントの増設予定メーカーは2社のみでした。
今後はM&Aによる事業拡大、大手資本への集約化が進むものと考えられます。一例として、KLK OLEOグループでは界面活性剤事業を行なう中国企業を買収するなど、誘導体から下流の事業領域までの展開を図っています。また、既存製品に特化して、ラインナップによる事業拡大を狙う動きが強い一方で、高付加価値製品の開発に重点を置く企業が存在感を増しています。Emery Oleochemicals では、欧米の研究開発拠点からマレーシアなどのアジアへ新技術を導入する体制を整えていました。 |
パーム油、ヤシ油生産の現状と今後の動向 |
世界人口の増加により、植物油脂の需要が拡大していますが、サステナビリティ(持続可能性)に対する重要性も高まってきています。パーム油の単位面積当たりの油収量(約4t/ha・年)は、ヤシ油(約1.5t/ha・年)よりも多いので、効率的な生産拡大に適します。しかし、熱帯雨林の伐採による生態系の破壊など、環境面での問題も指摘されており、農地拡大に制約があります。そこでマレーシアの公的研究機関であるMalaysian Palm Oil Board(MPOB)では、品種改良や収量を向上させるための技術開発に力を入れています。
また、フィリピンではこれまでに、ヤシ栽培に適した農地の開発はほぼ完了しており、行政機関であるPhilippine Coconut Authority (PCA)でも、現状の農地規模のまま収量を向上させるための技術的開発や、品種改良に力を入れています。 |
油脂産業のサステナビリティとRSPO認証 |
パーム油産業のサステナビリティ対応策として、パーム油に関連する様々なステークホルダー(利害関係者)が参加する中立・非営利の国際団体RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)が設立されています。パーム油産業が、ステークホルダーすべてに有益であり続けるための環境面、社会面などの取り組みが行なわれ、大手生産者もこれに参加しています。今回の訪問先でも、世界最大のパーム油生産会社である Sime Darby Plantationが、すべての農園と搾油工場でRSPO認証の取得を目指しているとの情報がありました。
しかし、現状ではマレーシアのCPO(粗パーム油)生産量のうちRSPO認証油は約10%に留まっています(流通量としては全体の約1%)。さらに、脂肪酸メーカーに関しては、現状はRSPO認証脂肪酸の需要がほとんどありません。今後の需要増加に伴い、RSPO認証への対応が求められていくと考えられます。サステナビリティは、今後ますます重要性が増していく社会的キーワードですが、事業においてはコストと需要拡大の面でまだまだ課題があります。特に、バイオディーゼル燃料(BDF)に関しては、フィリピン政府がヤシ由来のBDFについて配合義務を定めていますが、コストが高く国内需要向けの生産にとどまっています。マレーシアでは現状BDFの配合義務はなく、国内需要も少なく、EU向けに少量生産している状況です。 |
石鹸・洗剤市場 |
今回の調査では、店頭での市場調査も行ない、石鹸・洗剤市場の現場をみてきました。フィリピン(マニラ)の店頭では、欧米メーカー品が棚を占めており、特徴として安価な棒状の固形洗剤(バー洗剤)や、小包装の商品が多くみられます。対してマレーシア(クアラルンプール)の店頭では、まとめ買いの需要に対応するための大容量(3〜5kg)の衣料用洗剤が多く売られています。ボディーソープ類については、香りや機能で差別化した商品が多数ラインナップされ、日本の品揃えと良く似ています。
マレーシアの衣料用洗剤の市場規模は約259億円、石鹸・液体ソープ類の市場は約166億円。日本に比べると小規模ですが、市場は拡大しており、特に衣料用液体洗剤や液体のボディソープの伸び率が高いようです。今後さらに、粉末洗剤から液体洗剤への転換が進む可能性があり、この傾向は続くものと予測されます。 |
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調査団メンバー:ライオン株式会社 矢島敏夫(団長)、新日本理化株式会社 永田博章(副団長)、阪本薬品工業株式会社 亀屋正俊、日油株式会社 藤尾武、ミヨシ油脂株式会社 茂木健太郎 |
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