洗剤の洗浄力など、製品の品質を評価する方法を定めた「JIS K 3362:2024(家庭用合成洗剤試験方法)」が9月20日に改正・公示されました。 初めて液体の指標洗剤が追加され、衣料用洗剤市場の約9割を占める液体衣料用洗剤に対応したほか、近年顕在化しつつある再汚染(黒ずみ)の防止力評価方法も追加されました。本改正により、各メーカーは自社製品を客観的に評価し、よりよい工夫に役立てることができます。
当工業会による規格改正説明会の内容を、一部お伝えします。
洗剤メーカーが自社製品を評価する方法の一つ、
日本産業規格「JIS K 3362:2024」
<3つの改正ポイント>
1)衣料用合成洗剤の洗浄力評価方法に液体指標洗剤を追加
(液体指標洗剤の設定と、洗浄条件の見直し)
2)衣料用合成洗剤の再汚染防止力
評価方法の追加
3)台所用合成洗剤の洗浄力評価方法
(リーナツ試験に用いる溶剤の追加)
指標洗剤とは?
メーカーが開発した製品(市販の洗剤)が一定の洗浄力を満たしているかを試験で確認するためのもの。指標洗剤の作り方(配合)や試験方法は、細かく定められています。
『JIS改正の背景』より
大矢 勝 氏 横浜国立大学 名誉教授
JIS K 3362改正原案作成委員会 委員長
5年間の検討や研究の継続によって、この改正が実現しました。一言でいえば「世界的なSDGs推進の流れに対応した改正」です。最近の洗剤の傾向として、地球レベルの環境問題に対応してきたことが挙げられます。原料の節約や再生可能原料の選択、製造エネルギーや輸送エネルギーを低減する高濃縮液体洗剤の開発と容器の小型化、節水・節電に繋がるすすぎ性の向上などが、多くの製品にみられます。また、大容量洗濯機の普及とともに低浴比洗濯や衣類が黒ずむ問題、ひいては衣料品の大量廃棄が社会問題化しています。このような洗濯をとりまく環境変化やSDGsに対応する観点から、JIS規格を改正する必要がありました。
今回の改正内容の一番のポイントは、家庭用合成洗剤の品質の試験方法に、従来の粉末タイプに加えて、液体タイプの指標洗剤を設定したことです。付随して、各メーカーや試験機関が液体指標洗剤を用意する際の配合条件、試験の際に使う洗浄装置や洗浄条件も、細かく見直しました。
また、衣類の黒ずみの問題に対応し、洗剤の再汚染防止力を評価する試験方法も新たに導入することができました。
ここで、JIS規格の重要性を改めて考えてみましょう。まず、衣料用洗剤に求められる性質の優先順位は、時代とともに洗浄力・取り扱いのしやすさに加え、環境・安全性との両立が求められるように変化しています。しかし、世の中に環境問題への意識が高まったことで、衣類は水洗いで良いという誤解が広まれば、汚れがきちんと落ちないためにかえって衣類の寿命を縮めることとなり、環境への負荷が増してしまいます。こうした情報混乱を防ぐために、洗剤に必要な洗浄力や再汚染防止力を、科学的な検証をしっかりと経て定めたJIS規格が必要になります。JISの指標洗剤や試験方法には客観的かつ厳格な決め事があり、情報の混乱を防ぐという意味で、非常に重要な役割を果たしているのです。
『再汚染(黒ずみ)に関する最新研究※の紹介』より
桑原 里実 氏 和洋女子大学 助教
※大矢 勝氏、後藤 純子氏(共立女子大学教授)との共同研究
本改正で新たに導入した「再汚染防止力評価方法」は、2020年から進めてきた共同研究の成果です。
再汚染とは、衣類から洗濯浴中に脱離した汚れが再付着する現象のことであり、衣類全体に「黒ずみ」や「くすみ」を生じさせます。その原因の一つに、洗濯時の洗剤量の不足による、再汚染を防ぐ効果「再付着防止力」の低下が考えられます。また、近年の機能性衣類には化繊が多く、ススなどの疎水性の粒子汚れが吸着しやすい性質を持つことも要因の一つになっています。
黒ずみ・くすみが生じた衣類は「死蔵」(クローゼットなどにしまい込まれてしまうこと)や「衣類の廃棄」を招きます。「再汚染防止力評価方法」は、大切な衣類を長く着用する、環境負荷の少ない心地よい洗濯行動の実現に向けて、大きな意義があると考えます。
●当工業会 洗たく科学専門委員会、洗浄剤技術専門委員会は、
3つの改正ポイントの解説と質疑応答を行ないました
説明会当日はJIS規格のユーザーなど約130人が聴講し、試験方法や結果の活用方法への高い関心が寄せられました。
今回の改正は、洗濯環境の変化に合わせて求められる品質や機能に重点を置き、大学の研究協力を仰ぎながら作り上げました。詳しい解説書も取りまとめ、英語版も作成しています。洗剤を使うみなさんに新たな価値を提供するうえで、国内・海外を問わず、広くご活用いただければと思います。
◎説明会は10月25日に実施しました。写真は左から、当工業会の石井 孝一氏(NSファーファ・ジャパン(株))、山田 勲氏(花王(株))、JIS改正原案作成委員長の大矢 勝氏(横浜国立大学)、後藤 純子氏(共立女子大学)、桑原 里実氏(和洋女子大学)、当工業会の野村 昌史氏(花王(株))、兵藤 亮氏(ライオン(株))、事務局の宮前 喜隆氏。