当工業会の啓発活動のヒントとするため、日本の衛生の歴史を振り返ります。2回目は、近代の感染症とその対応についての考察です。前回にひきつづき、花王(株)で幅広い衛生活動に携わってきた小島さんと徳田さんにお話をうかがいました。
今回は1980年代〜2020年を振り返ります。

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■ 1990年代に新時代の感染症対策が本格化
1980年代頃の日本の厚生行政は、高齢化社会に向けた制度づくりや成人病予防などが中心的でした。1990年代後半になって、腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒の発生や、新興感染症の高病原性鳥インフルエンザの流行があり、感染症の脅威が拡大します。そして1999年、旧来の『伝染病予防法』に替わり『感染症法』が施行されました①。古くは“何か悪いものが伝染する病気”という認識だったのが、菌やウイルスの研究がすすんで“感染症”に変わり、法律も、人や物が世界中を行き来する時代に合わせて変える必要があったのです。
■ 手洗いマニュアルは医療現場で発展、徐々に広まる
1996年のO157事件を機に、厚生労働省は“大量調理施設用の手洗いマニュアル”を作成しました。手洗いマニュアルは、もともと医療現場で感染症の拡大を防止する方法論として扱われてきました。それが飲食業界に向けて再構築され、さらに、2009年に新型インフルエンザが流行した際に“家庭用の手洗いマニュアル”が出来上がりました②。ここでようやく、咳やくしゃみの飛沫などのウイルスが手につくと、手や触った物を介して感染が広がっていく「接触感染」のリスクも知られるようになりました。つまり、ほんの10 年前までは、 感染症を予防する手洗いの真の意味について知らない人も多かったわけです。
■ コミュニティのなかから感染リスクを低減していく
2020年のコロナ禍で、人々の衛生意識はさらに変わりました。現在は医療現場のみならず、日常生活での感染症対策が重要となっています③。今後は一人ひとりが、家庭やコミュニティのなかでの感染リスクの低減をはかっていく時代になったと言えます。では、感染リスク低減のために何ができるでしょうか。花王は2020年の2月から、ウイルスなどに関する専門家と花王の科学的な知見を特設サイトで発信してきました※。また、生活者向けのサイト「暮らしに役立つ衛生情報」では、いつものお掃除で家庭でのウイルス除去ができる場合があるなど、毎日続けやすい対策方法も紹介しています。今後も感染症予防の啓発と、生活全体の衛生の向上に役立つ情報を提供していきたいと思います。
(前号 日本の衛生と手洗い教育の歴史[1] はこちら)