日本石鹸洗剤工業会(JSDA)
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2004年9月15日更新
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参照カテゴリ> #03.化学 #02.安全 

*PRTRデータを読み解く−PRTRデータと界面活性剤リスク評価−

B. PRTR法公開データと主要洗剤成分のリスク評価

環境・安全専門委員会
吉村孝一

(2004/5/24開催)

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1)主要界面活性剤の用途
2)PRTR法における排出量/移動量
3)界面活性剤の下水処理
4)PRTR法における界面活性剤の移動量と排出量のまとめ
5)環境に排出された界面活性剤
6)リスク評価
7)リスク評価結果
8)日本石鹸洗剤工業会の今後の取組み

 1)主要界面活性剤の用途
家庭用洗剤等に使用されている界面活性剤のうち、LAS、AE、DACおよびAOの4種が、PRTR法で指定化学物質に指定されています。これらの界面活性剤の主な用途と使用される製品分野はこの図のとおりです。

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 2)PRTR法における排出量/移動量
2−1)データの由来
 PRTR法で指定された化学物質については、製造または輸入事業者が“排出量”と“移動量”を国に届けます。これが表中の「届出」に相当します。
 一方、従業員の少ない事業者や製造または輸入量の少ない事業者は届出対象外となり、国が推定することになっています。また、飲食業・農業・林業などの業種や家庭から排出される量についても「届出外」として、こちらも国が推定をします。なお、家庭から出て、下水処理(公共下水道、合併処理施設等)される量は、届出外の移動量の参考値として国が推計しています。

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2−2)洗剤の環境への排出、移動経路(セミナー1B/4/22に同じ)
 前頁の区分と、界面活性剤の主な配合製品である洗剤の環境への排出、移動経路をあわせると、この図のようになります。洗剤は使用後家庭排水となりますが、その74%(全国平均)は直接環境に排出されるのではなく、公共下水道や合併浄化槽などの水質浄化施設で処理を受けてから排出されています。74%の内訳は公共下水道処理が64%、合併浄化槽等による処理が10%です(2001年度) 。この74%はPRTR法上では下水道への移動であり、届出外(家庭)の移動量となります。残りの約26%は家庭から直接環境に流されていることになり、PRTR法上の届出外の排出量(家庭)として算出されます。

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2−3)第1種指定化学物質と指定界面活性剤の排出量、移動量
 第1種指定化学物質(354種)の排出および移動量の合計は、01年で111万トン、02年では109.6万トンと報告されました。
4種の界面活性剤についてみると、総量では02年は5.9万トンで01年(5.7万トン)よりやや減少しています。事業者からの届出数量よりも届出外の排出量が圧倒的に多い数字(96%)となっています。

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4種の界面活性剤について個別に排出量をみてみます。
2−4)LASおよびAEの排出量

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2−5)DACおよびAOの排出量

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2−6)4種類の界面活性剤の排出量の変動
 01年、02年2年間の公開データからみた界面活性剤の排出量は、届出対象事業者の比率は少なく、届出外の推定排出量比率が高く、特に、家庭用製品由来の比率が高くなっています。

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2−7)LASおよびAEの移動量

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2−8)DACおよびAOの移動量

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 3)界面活性剤の下水処理
3−1)下水道に移動された界面活性剤の処理
 現在下水道は全国平均で約64%、合併処理施設は約10%(計74%)普及しております。これらの設備においては、移動量の多いLAS,AEは99%以上分解除去されることが確認されています。

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3−2)下水処理場における界面活性剤の被処理性(セミナー1B/7/22に同じ)
 下水処理場へ移動した界面活性剤は効率的に除去されることが確認されています。下水処理施設による界面活性剤の除去率を1月および4月に、実際に測定した結果、LASでは99.5%以上、AEでは99.9%以上除去され、BODと同等かそれ以上でした。

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3−3)汚水処理整備率の上昇(セミナー1B/10/22に同じ)
 日本における下水処理施設の整備率は過去数十年間上昇を続けています。2001年度においては74%に達しています。

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 4)PRTR法における界面活性剤の移動量と排出量のまとめ
これまで個別にみてきた4種の界面活性剤の移動量、排出量の2年間の公開データをひとつの表にまとめました。
 界面活性剤の種類では、排出・移動量で多いものはAE,LASですが、AEは増加、LASは減少の傾向がみられます。
 排出量、移動量別では、排出量が移動量より多くなっています。下水道への移動量(参考値)は約9.9万トンと推定されていますが、これは下水処理場において99%以上分解除去されます(3−2)参照)。
 排出量のうち届出外家庭の家庭用洗剤等02年約3.5万トンは、下水道や合併浄化処理等を経ないで、直接環境に排出されると推定された量です。

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 5)環境に排出された界面活性剤
実際の河川における界面活性剤はどのような状態・濃度で存在しているのでしょうか?
5−1)環境に排出された界面活性剤に関する調査研究
 PRTR法で指定されている4種類の界面活性剤は、環境水系の自浄作用により、いずれも分解除去されることが確認されています。
 また、日本石鹸洗剤工業会は、界面活性剤の環境への影響を精度良く把握するための調査研究を進めています。河川中での界面活性剤の残存濃度測定は、1998年から年4回(環境モニタリング調査)行っています。また、環境に放出された界面活性剤の命運について河川モデルを用いてシミューレーションを行い、環境モニタリング調査の結果の検証も行っております。

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5−2) 環境モニタリングによる方法(セミナー1B/17/22に同じ)
 日本石鹸洗剤工業会ではこれら4種の界面活性剤について、多摩川、江戸川、荒川および淀川の定点で濃度調査(モニタリング)を継続して行っています。

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5−3) 環境モニタリング結果(セミナー1B/8/22に同じ)
 この表は1998年から実施している環境モニタリングの結果をまとめたものです。河川水中に存在する極微量の界面活性剤を検出するために、高感度分析技術を用いています。
 測定された界面活性剤濃度と、水系生態系での最大許容濃度を比較して、リスクを判定していきます。

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 6)リスク評価
6−1)リスクの概念
 毎日の暮らしの中で使われる化学物質は、安全性が高く安心して使用できることが重要です。化学物質は天然のものでも、化学合成されたものでも「無条件で無制限に安全である」というものはありません。どんな化学物質でも摂取したり、暴露される量が多くなれば、体や環境に好ましくない影響が出てきます。
 化学物質のリスク評価は、人の健康に関する評価(人健康リスク評価)と、環境中の水生生物等の自然生態系への影響評価(環境リスク評価)が対象になります。
 リスクとは、化学物質の潜在的に持っている有害性(ハザード)の程度と、人あるいは環境がこの化学物質によってどの程度さらされるか(暴露量)という二つの組み合わせで決まり、“リスク=ハザード×暴露量で表すことができます。
 この式から、化学物質は短期間に大量に接触・摂取(暴露)すればリスクが大きくなること、また、有害性の高い物質であってもごく微量の接触・摂取(暴露)であれば、リスクが小さくなり影響が生じる可能性が低くなることがわかります。

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6−2)リスク評価の手順
 リスク評価の手順は、まず、ハザード(有害性)の種類と強さを評価し〔ハザードの評価〕、その有害性がどのような量で生じるかの用量反応性とヒトへの外挿性を評価します〔ハザードの分類〕。次に、ヒトがどのように暴露されるかを、その種類と程度の点から評価します〔暴露条件の解析〕。この両方から、最終的にリスク評価を行います〔リスク評価〕。

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6−3)暴露マージン(MOE:Margin Of Exposure )を用いるリスク評価法
 リスク評価には暴露マージン(MOE)を用いる方法と、ハザード比(HQ:Hazard Quotient)を用いる方法があります。
 人の健康影響リスク評価の暴露マージン法は、人への推定暴露量(EHE)に対し慢性毒性試験等から求める最大無毒性量あるいは最大無作用量(NOAEL)の比の値(MOE)が不確実係数(または安全係数)より大きいか否かで求めます。通常不確実係数は100が用いられます。MOEが100より大きい場合は、リスクが小さく安全性の懸念がないことを示します。
 環境影響リスク評価の暴露マージン法は、河川から検出された濃度からの推定環境濃度(EEC)に対し、環境生物に対する無影響濃度(NOEC)の比の値(MOE)が不確実係数(または安全係数)より大きいか否かで求めます。無影響濃度がどのような試験から求められたかで、不確実係数は10〜1000の値が用いられます。
 MOE法は結果的にはHQ法と同様の結論が得られます。本セミナーでは以後、HQ法で説明します。

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6−4)ハザード比(HQ:Hazard Quotient)を用いるリスク評価法
 人の健康影響リスクのハザード比による評価方法は、動物による慢性毒性試験から得た無影響量(NOAEL)から、安全係数(あるいは不確実係数。通常は100 )による耐容1日摂取量(毎日摂取しても影響を生じない量、TDI)を求め、TDIに対し、 人の推定暴露量(EHE)の比の値をハザード比(HQ)とします。ハザード比が1未満であればリスクが小さく、安全性の懸念がないと判断されます。1より大きい場合はリスクが大きく、リスクを詳細に解析したうえで対策検討の必要性が判断されます。
 環境影響リスクのハザード比による評価方法は、環境生物に対する予測無影響濃度(PNEC)に対する予測環境濃度(PEC)の比の値(PEC/PNEC比)が、1未満であればリスクが小さく、安全性の懸念がないと判断されます。1より大きい場合はリスクが大きく、リスクを詳細に解析したうえで対策検討が必要と判断されます。
 HQ法は結果的にはMOE法と同様の結論が得られます。本セミナーでは以後、HQ法で説明します。

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 7)リスク評価結果
7−1)LASのリスク評価結果“人健康影響”
 LASのHQ=EHE/TDI=0.29/3=0.097<1となり、“リスクは小さく、安全性の懸念がないと判断される”の結論になります。

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7−2)LASのリスク評価結果“水環境影響”
 LASのPEC/PNEC比=81/250=0.32<1となり、“リスクは小さく、安全性の懸念がないと判断される”の結論になります。

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7−3)AEのリスク評価結果“人健康影響”
 AEのHQ=EHE/TDI=0.00952/6=0.0016<1となり、“リスクは小さく、安全性の懸念がないと判断される”の結論になります。

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7−4)AEのリスク評価結果“水環境影響”
 AEのPEC/PNEC比=12/110=0.11<1となり、“リスクは小さく、安全性の懸念がないと判断される”の結論になります。

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7−5)AOのリスク評価結果“人健康影響”
 AOのHQ=EHE/TDI=0.0135/0.5=0.027<1となり、“リスクは小さく、安全性の懸念がないと判断される”の結論になります。

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7−6)AOのリスク評価結果“水環境影響”
 AOのPEC/PNEC比=0.34/26=0.013<1となり、“リスクは小さく、安全性の懸念がないと判断される”の結論になります。

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7−7)DACのリスク評価結果“人健康影響”
 DACのHQ=EHE/TDI=0.023/0.1=0.23<1となり、“リスクは小さく、安全性の懸念がないと判断される”の結論になります。

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7−8)DACのリスク評価結果“水環境影響”
 DACのPEC/PNEC比=3.8/94=0.04<1となり、“リスクは小さく、安全性の懸念がないと判断される”の結論になります。

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7−9)日本石鹸洗剤工業会のリスク評価まとめ
 4種の界面活性剤のリスク評価の結果、人健康影響、水環境影響においてもHQで1以下、PEC/PNEC比で1以下です。したがって、リスクは小さく安全性の懸念はないと判断されます。

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 8)日本石鹸洗剤工業会の今後の取組み
日本石鹸洗剤工業会では、日常の家庭で使用される洗剤製品等について、適正な使用量において適正な洗浄性能を発揮させるために、主要となる界面活性剤成分はじめ助剤成分について、また容器素材においても使用量削減の努力を進めてきています。今後もこれを継続してまいります。
 環境負荷低減のため、今後ともより環境適合性の高い素材の開発努力とその利用推進に努めてまいります。
 洗剤の環境および人健康影響に関してのリスク評価を今後とも継続し、情報公開およびコミュニケーションに努めてまいります。

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