日本石鹸洗剤工業会(JSDA)
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2004年3月15日更新
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*安全性とは何か どのように考えているか

環境・安全専門委員会
聳城 豊

(2004/1/27開催)

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1)洗剤の安全性に対する誤解
2)ヒトへの安全性を確保するために
 2-1)安全性評価の考え方
 2-2)安全と安全性
 2-3)洗剤の安全性確認(通常使用時と誤使用・誤摂取時)
 2-4)安全性評価項目と信頼性

 1) 洗剤の安全性に対する誤解
洗剤でゴキブリが死ぬ
ゴキブリの体表面はあぶらぎっており撥水性をもっています。洗剤をかけると、洗剤に含まれる界面活性剤がゴキブリの体表面と親和性があるため、呼吸器である気門から細い気管の中まで洗剤液が浸透して、空気の出入口をふさいでしまいます。このことにより、ゴキブリは窒息死するものであり、洗剤の毒性により、死ぬわけではありません。

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ゴキブリに洗剤などをふりかけてから死ぬまでの時間
洗剤に限らず、サラダオイル、オリーブ油、化粧乳液など、私達が食べたり、問題なく使っている毒物でも、油性の物質または洗剤に含まれる界面活性剤のように、表面張力の小さな液体は、ゴキブリの体表面と親和性をもち、ゴキブリの体表面を被うほどの量をふりかければ、呼吸器である気門内に液体が浸透し、いずれも数十秒でゴキブリは死んでしまします。

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金魚鉢に洗剤を入れると魚が死ぬ
金魚鉢に洗剤を入れてしまうと、金魚が死んでしまうことがありますが、これは、洗剤に含まれる界面活性剤の濃度が高いと、界面活性剤が金魚のエラに吸着することにより、金魚が水中で酸素呼吸ができなくなり、そのために死んでしまうのです。しかしながら、実際の河川や湖の中では、界面活性剤の濃度は魚毒性が認められる濃度よりも極めて低く、魚への影響は実際上は問題が無いものです。

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小松菜やかいわれ大根は洗剤では発芽しない
小松菜やかいわれ大根の種子を水を浸したガーゼ等の上に置き、ここに一定濃度以上の濃い洗剤液を入れると、発芽しないことがあります。これは、種子が水分を吸収しようとする際に、洗剤液に含まれる界面活性剤が種子表面から内部へ水が浸透する際の浸透圧に変化等を生じることにより、水分吸収がしづらくなって、発芽できなくなるため、人間に対する毒性とは関係ありません。食塩水、ビール、紅茶、清涼飲料水などでも浸透圧に変化を生じ、洗剤液と同様に種子は発芽しません。

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安全性データの解釈 有害性と危険性
洗剤の安全性に対して誤解を招くような実験の結果を示してきました。ゴキブリが死ぬ、金魚が死ぬ、種子が発芽しない、というその生物にとって有害と思われる「ある現象」が生じた場合に、その現象がヒトにも生じるかどうか、すなわち、有害性(毒性)発現メカニズムから、同じ有害性(毒性)がヒトでも発現し、ヒトの有害性にあてはまるかを判断する必要があります。前述の実験例は、いずれもその有害性(毒性)発現メカニズムから、ヒトに有害性を現すものではありません。また、有害性(毒性)と危険度は、一致しません。危険度とは、危害(危険)の度合い(リスク)であり、ヒトや環境に悪い影響を及ぼす可能性のことです。これらは、その物質の持つ有害性(毒性)とその物質にどれだけ接するか(暴露)によって決まります。

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 2)ヒトへの安全性を確保するために
 (2−1) 安全性評価の考え方
洗剤等日用家庭用品の安全性確保
洗剤等の日用家庭用品は、健康で衛生的、快適で便利な日常生活を送るために不可欠な物であり、多くの人々が、一生のうちの長期に渡って使用しています。すなわち、日常生活に深く浸透したものですので、安心して使えるものでなくてはなりません。したがって、日用家庭用品に配合する原料及びこれを配合した製品について、様々な観点から人体への安全性を評価し、安全性を保証しています。以下、洗剤等の日用家庭用品の安全性をどのように評価し、確保しているかについて説明します。

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 2)ヒトへの安全性を確保するために
 (2−2) 安全と安全性
安全と安全性〈1〉
「安全」と「安全性」というニつの言葉の意味するところは当然異なりますが、しばしば、混然として明確でない場合があります。「安全」は「今日は昨日のごとく経験した状況と変化のない状態」、平穏無事であったことを指し、結果として安全であったという、過去又は現在完了型の概念です。それに対して、「安全性」は「明日は今日のごとく在ることを願う」いわば、安全であることへの見通しといえます。「安全」という状態の見通しがどの位得られるか、100%の安全性保証は理論的にはないかもしれませんが、ある条件を示せばどの位の安全を保証できるかという、未来型の概念です。これを、飛行機による運行に例えてみると、飛行機は鉄の固まりであり、世の中に決して落ちない飛行機はありません。そこで、機体を点検し、また、十分な量の燃料があるか、パイロットも確かな人か、飛行機の運行に欠かせないコンピューターも問題無く作動するかなどを確認した上で、飛行機は離陸します。これら、無事に目的とする飛行場に着くであろうということを保証するための一連の行為が、飛行機が運行するための「安全性」の確認ということになります。そして、その飛行機が目的とする空港に無事に到着すれば、飛行機に乗った人にとってみれば、「安全」な空の旅であったということになります。

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安全と安全性〈2〉
安全性の評価とは科学的な手法を用いて、日用家庭用品の原料・製品に危険(危害)がないことをある程度の確かさで予測することであり、極論をいえば見切り発車ともいえます。しかしながら、結果としてお客様がその製品の使用により危害を受けなかったことにより、安全性評価あるいは予測の方法・手段の正当性が裏付けられます。また、次の新たな原料・製品の安全性を評価する際に、より確度の高い評価ができることになります。

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安全性の基本の考え方
科学的にいうと世の中に「絶対安全な物質」はありえません。すなわち、安全性を考えたときに、安全か否か(有毒か無毒か)という単純な分類はできません。一般に化学物質が生物に与える影響は一様ではなく、生物種によって影響の現れる量が異なりますし、作用の仕方も質的に異なります。また、すべての物質は量が増せば必ず何らかの毒性を示すようになりますし、毒性が現れる量は生物によって異なります。この毒性の基本的な考え方を提唱したのは、今から500年も前、スイスの薬理学者のパラケルスス(PARACELSUS 1493-1541)であり、「すべての物質は毒であり、毒でないものはありえないのであって、まさに用量が毒と薬とを区別するのである。」と述べています。

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毒性の強さの分類と物質例
実験動物の体重1kgあたり、どれだけの量を一度に与えたら、実験動物の半数が死ぬかという値(半数致死量:LD50値)、すなわち急性毒性の強さに基づき、いろいろな物質を分類してみます。ふぐ毒のテトロドトキシンや、ボツリヌス菌によって産生され、ボツリヌス中毒を起こすボツリヌス毒素が最も毒性が強い部類となります。一方、私達が日常生活で安全と思って使用している食塩でさえも、ある一定量以上で毒性を示すことが分かります。洗剤類の急性毒性の強さは、この食塩やアルコールと同じ分類です。

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量と影響
物質はある一定量を超すと、何らかの影響が現れます。何らかの影響、この場合はガケから落ちる危険性ですが、何歩か歩けばガケから落ちるかが分かれば、目隠しで歩いてもガケに落ちずに安全でいられます。日用家庭用品の安全性評価にあてはめてみると、どのような種類の有害性(毒性)があり、それがどの位の量で生じるかを確認することになります。

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安全性評価の手順
安全性評価の手順は、まず、有害性(毒性)の種類と強さを確認し、その有害性がどのような量で生じるかの用量反応性とヒトへの外挿性を評価します。次いで、ヒトがどのように暴露されるかを、その種類と程度の点から評価します。この両方から、最終的な安全性評価を行います。すなわち、危害(危険)の度合い(リスク)として、ヒトや環境に悪い影響を及ぼす可能性がどの位あるかを、その物質の持つ有害性(毒性)とその物質にどれだけ接するか(暴露)によって決めることになります。

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安全性の確保
安全性の判断は、その物質の目的とする使い方、使用方法によって異なり、それらの条件下で安全かどうかを評価することが基本になります。安全と思われるものでも、使い方を間違えると有害になります。
日用家庭用品の安全性は、誰がどのような使い方をしても健康を全く損なわない(Fool Proof)、又は、使い方を間違えても事故を防止できる(Fail Safe)ことが理想となります。しかしながらFool Proof又は Fail Safeを達成することは事実上不可能なことであり、現実的にはリスク/ベネフィット(有害性/有用性)バランスで、安全性を判断することになります。

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リスク/ベネフィット バランス
安全性を考えた場合に、物質(製品)の存在価値は、その物のもつリスク/ベネフィット(有害性/有用性)のバランスで判断することになります。例えば、医薬品の場合、その使用に当たって副作用の生ずることがわかっていても、その存在価値は充分認められます。癌治療薬などの場合、かなりの副作用があっても容認されるのは、それを用いて得られる効能が、使用に伴う危険あるいはそれを全く用いない場合の危険に比べて大きいからです。同じ医薬品でも、命に直接かかわらない病気の治療に用いるものの場合は、薬の使用に伴い生じる危険性(副作用の発現)を重要視する比率が高く、安全性の確保はより厳しくなります。日用家庭用品について考えてみると、病気を治すような効能をもつわけではないので、安全性の確保はより一層厳しくなり、生体に作用しない、すなわち、ヒトに有害作用を生じない範囲の中で、その物質を製品に配合した場合に、その機能を発揮できる量が、その物質を使用する際の基本となります。

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 2)ヒトへの安全性を確保するために
 (2−3) 洗剤の安全性確認(通常使用時と誤使用・誤摂取時)
実際上の安全性確保
実際に安全性を確保するには、「どのように使えば問題なく使えるか」の観点から、「実用上の安全性を確保する」ことにより行います。
日用家庭用品の実用上の安全性を確保するために、通常使用時の安全性として副作用がないこと、また、誤使用・誤摂取時の安全性として、応急処置をすれば一過性の副作用ですむことを確認します。

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使用実態の把握と安全性確保のレベル
使用実態を把握し、使用方法、あるいは生活実態に基づいた通常の使い方、および推定される誤使用条件下で、日用家庭用品の安全性を確保しています。ここでいう「通常使用」とは、消費者がその物質を用いるとき当然予知できる使用条件を意味しており、ここでは、いわゆる標準(又は指示)使用条件を超えた条件も含まれます。

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通常使用時の安全性評価
通常使用時の安全性を評価する際、人体との接触状況は種々考えられますので、まずヒトがその製品にどのようにして暴露されるかをみて安全性評価の項目を設定します。日用家庭用品は、通常使用時に手や皮膚に直接接触するものが多いため、皮膚刺激性、皮膚感作性、手荒れ性などの皮膚への影響を検討することは重要な評価項目のひとつです。また、口から、又は皮膚を通して、洗剤の成分を長期に微量摂取することも考えられますので、全身への影響も評価しています。全身への影響評価として、慢性作用、発がん作用の確認があります。遺伝毒性は遺伝子に対する作用の確認ですが、発がん性のスクリーニングの目的もあります。わずかに体内に入った洗剤の成分が蓄積しないかどうかについては、吸収/分布/代謝/排泄を評価することにより行います。生殖/発生への影響は、子孫への影響、繁殖性、催奇形性(奇形を起こす性質)など、様々な観点から評価します。

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誤使用・誤摂取時の安全性評価
日用家庭用品は、使用時に誤って眼に入ることも考えられるため、眼刺激性を評価しています。また、トイレ用の洗浄剤など作用が強いものが誤って皮膚に触れた場合の皮膚刺激性/腐食性についても、評価を行います。誤飲・誤用などの事故により一度に多量に摂取した場合の作用は、急性経口毒性により評価します。また、誤って吸入した場合を想定し、吸入毒性を評価します。

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 2)ヒトへの安全性を確保するために
 (2−4) 安全性評価項目と信頼性
製品の使用実態(暴露)調査項目
安全性評価の第1のステップは製品の使用実態(暴露)調査です。ヒトがその物質にどのくらいの濃度(量)で、どのくらいの頻度および時間(期間)など、いかなる状況下で暴露されるかということを、使用実態(暴露)調査により確認します。

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暴露評価から試験条件の設定
ヒトがその物質にどのようにして暴露されるかの暴露評価から、安全性評価の項目ごとに具体的な試験方法の選択と試験条件の設定を行います。

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安全性評価方法の設計
安全性評価の方法は、画一的に決められません。使用実態(暴露評価)から得られた安全性評価の項目に応じた試験方法は種々あり、常に最高の科学・技術水準に則った最新の評価基準・評価手法にて、安全性評価を行います。

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安全性の総合評価スキーム
実際の安全性評価を進める際に、まず試験法ありきではありません。安全性評価は、対象となる原料・製品の特性、用途、使用方法等に関する情報を十分把握し、どの様な観点から評価を行ない、各評価項目毎にどの様な試験方法を採用し、試験条件をどの様に設定するか、のいずれについても適切に行なう必要があります。また、最新の科学水準に合致した手法により安全性試験を適切に実施し、場合によってはヒトの実用試験の結果も踏まえ、総合的な安全性評価を行っています。

↑22/24
安全性試験結果の信頼性確保
安全性試験結果等の科学的情報は、試験結果の再現性が確保され、そのデータの信頼性が高いことが重要です。1960年代から1980年代にかけて、合成洗剤の安全性が、いろいろと注目されました。これらを解決するために、科学技術庁、厚生省などの中央政府機関、地方自治体、工業会・企業により合成洗剤の安全性評価を目的とした各種試験が広範に行われてきました。これらの多くの安全性試験の結果は、信頼性を評価した上で取りまとめられています。例えば厚生省による「催奇形性合同研究(1976年)」では、共同研究により試験の再現性が確保されました。同じく、「洗剤の毒性とその評価(厚生省1983年)」では、第三者により試験内容と結果が検証され、取りまとめられました。試験の再現性を確保する科学的な手段として、GLP基準に準拠して安全性試験を行なうことも、安全性試験結果の信頼性確保に繋がります。また、専門誌に投稿され、複数の専門家により内容が審査され、研究論文として学術誌に掲載されることも、試験結果の信頼性が高いことを示します。
一方、現在生産量が多い既存化学物質は、世界的な安全性点検作業【HPV(High Production Volume、高生産量既存化学物質)活動】が推進され、ここでは信頼性が高く、安全性評価に資する試験結果のみが国際的に審議されており、その中で洗剤原料等の安全性についても検討されています。

↑23/24
安全性の再評価
分析技術、毒性学の技術革新や科学技術の進歩により、試験法や評価方法は常に改良・開発されています。また、生活者のライフスタイルの変化により新たなリスクが顕在化する可能性があります。したがって、これらの動向を把握したり、市販後の消費者からのクレームを解析するなど、常に製品の安全性を確認する活動を行っています。

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