化学製品PL相談センター
[2022年度活動報告]と講演より
2023年6月29日に東京で開かれた報告会から、一部をお伝えします。
PL相談センターは製造物責任法(PL法)の制定に伴い、1995年に設立されました。中立的な第三者機関の立場から、化学製品とPL法に関する相談に電話対応しています。日本石鹸洗剤工業会もサポーティングスタッフとして協力しています。
化学製品PL相談センターのホームページhttps://www.nikkakyo.org/plcenter
『2022年度活動報告』より
化学製品PL相談センター センター長
菅沢 浩毅 さん
・2021年度の全相談件数は241件、前年度から大幅に減少
PL相談センターの特色は、中立的な機関の立場による電話応対にあります。相談者と直接会話することで、化学製品やその成分に関する不安や疑問点、確認したい事柄を把握し、客観的な情報提供を行なっています。
2022年度の全相談件数は234件(前年度比97.1%)でした。コロナ禍ではさまざまな化学製品が感染症対策に利用されましたが、関連した相談は前年度に続いて減少しました(2021年度16件→2022年度9件)。
相談内容別(下図)では、化学製品に関する一般相談等が178件あり、前年度比126%と伸長しました。
内容を振り返ると、多くの相談者が自分でインターネット上に溢れる情報を調べ、理解している内容で間違いないか確認するために、電話相談を活用しようとしている様子がうかがえました。当センターは相談者の疑問に化学的な説明で応え、さらに現時点では情報の信憑性が疑わしい、いわゆる風評情報とは分け、科学的に未解明である事実が適切に伝わるように注意しています。今後も、有益な情報発信に努めていきます。
講演『化学物質のリスクを正しく恐れる』
一般社団法人 京葉人材育成会会長
東京大学 工学系研究科 非常勤講師
中村 昌允 さん
◇大きな構造から、本当は何が問われているのか考える
今日は私たちのゼロリスク思考と、社会に対する安全性の説明責任について、考えていきたいと思います。
一例として地球温暖化とCO2の問題があります。炭素を使わないとなると化学産業は成り立ちませんし、経済が発展するとCO2排出量は増えます。ある国のCO2排出量が今より増えたとしても、その国民が他国と同じ水準の生活を望むのは当然のことであり、それをおかしいとは言えないはずです。このような基本的な構造を考えると、問われているのはCO2排出量そのものではなく、もっと効率のよい設備や新たな技術開発の検討、エネルギー使用の考え方の見直しなどであることがわかります。
本当の問題とは、大きな構造の変化のなかで、私たちの産業がどう生き残るか、ということなのです。
化学物質の安全とリスクに関わる事例も同じです。化学物質は本当に怖いのか? と問われたとき、より大きな構造を見ない人は、「化学物質は、安全な物質と有害な物質に二分される」「農薬は虫を殺すので危険だ」と考えがちです。しかし、専門家がきちんと説明責任を果たしたなら、その人の考え方は変わってくると思います。
◇リスクがあっても、正しく理解し使用すれば、怖くない
化学物質の安全性については、16世紀の初めに「あらゆるものは毒である。無毒にするのは、服用法のみである」という考え方が示されています。ビールを例にとりましょう。無茶な飲み方をして救急搬送されたというニュースを聞いても、「悪いのはビールだ」とはなりません。「悪いのは飲む量と飲み方だ」と多くの人が理解しています。この服用法のような大前提の理解が、化学物質の安全とリスクに関しては得られていないことが問題です。
化学物質にはリスクがありますが、正しく理解し、使用すれば、怖くありません。にもかかわらず、市民が「危ない」と感じて心配するのは、政府や産業界、専門家の説明が十分でなく、信頼の構築が足りないためです。
また、日本社会は「危ない」ことは止めるべきだと言いますが、「止める」リスクもあります。リスクとベネフィットとを比較し、トータルリスクミニマムで考えられていないことも課題です。日本のゼロリスク思考を見直さないと、国際競争は成り立たなくなります。
今、枯渇していく資源の代わりとなる技術の開発が盛んです。時代の変わり目には必然的に新しい科学技術が求められ、新しいものが開発されます。それが私たちの生活にどんな影響を与えるのか、開発時からきちんと情報提供がなされて、人々が議論し考えることを同時にやっていかなければならない、今はそういう時代なのです。
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