化学製品PL相談センター
「誤使用」を考える 活動報告会を開催
製造物責任法(PL法)制定の翌年(1995年)に設立された化学製品PL相談センターは、消費者からのPL法関連の事故や化学製品全般に関する相談に応じています。当工業会は、サポーティングスタッフとして活動に協力しています。
6月30日に平成28年度の活動報告会が実施されました。主に「誤使用」を取り上げた報告会の内容を一部紹介します。
↑会場:住友六甲ビル2階 化学団体共用会議室
登坂 正樹 さん 「平成28年度活動報告」より 一般社団法人日本化学工業協会 内
化学製品PL相談センター 部長
化学製品に対する一般相談が増えている
平成28年度の相談件数は計231件で、化学製品による事故に関連した相談が109件(前年比102%)、安全性などに関する一般相談が122件(同134%)でした。一般相談が増えている要因として、インターネット上にさまざまな情報が氾濫し、「どの情報を信用したら良いのかわからない」と感じる人が増えたのでは、との見方が示されました。
相談事例から見えてくる、誤使用を招きやすいパターン
1.注意情報が伝わらない
「DIYで漆喰を塗り皮膚が化学やけどを起こした」
・漆喰の主成分の消石灰は強アルカリ性で、皮膚に対する刺激性や眼に対する重篤な損傷性があることが、使用者に伝わらなかった。要因として、販売業者はHPなどで製品の魅力的な特長を伝えることに重点を置いており、注意表示や警告が不足していた
2.注意表示の見落とし
「靴用防水スプレーを吸入して入院した」
・製品本体に使用上の注意が書かれていたが気付かずに使用、警告表示が見落とされてしまった
※相談事例から抜粋
誤使用を防ぐためには啓発活動が重要
製造業者は、注意表示を適切に行ない、消費者に表示を見て正しく行動してもらうための啓発活動に取り組む必要があります。具体的には、消費者が知りたい「製品の使い方・ハウツー情報」と「注意・警告情報」を絡めて記載し、記憶に残りやすくすることや、啓発情報がインターネットを通して広く世の中に行き渡るようにすることなどが提案されました。
また、消費者を取り巻く環境が変わると、製品の使用環境や誤使用を招く要因も変わるため、そこに注目する必要があるとのこと。「誤使用を深く考えると、消費者志向経営につながる」という言葉で報告は締めくくられました。
小松原 明哲 さん 「誤使用の背景:人間生活工学の立場から」より 早稲田大学 理工学術院 創造理工学部
経営システム工学科 教授
日本社会が求めている製品安全とは
PL法では、使用者が「通常の使用」をして事故が生じた場合、その製品には「欠陥」があり、製造業者らに責任が及ぶとしています。つまり、日本社会は「通常の使用」を前提とした製品安全を求めているということです。
「通常の使用」には、椅子に座るといった「正しい使用」だけでなく、椅子を踏み台にするといった「あり得る使用≒誤使用」も含まれるため、製造業者は使用者目線で「あり得る使用」を予見しなければなりません。そのために必要なリスクアセスメントのプロセスが紹介されました。
リスクアセスメントのプロセス
※当日の発表資料から抜粋
リスクアセスメントでは、最初に製品の使用者(購買者・主使用者・副次使用者・同席者)と、通常の使用(正しい使用・誤使用)を定義します。大切なのは、製品の流通から廃棄までの全体を見て、使用者目線で製品安全を考えること。また、使用者にも注意義務はあるものの、不注意で事故が起きるのは製品に人間工学的欠陥がある可能性が高く、事故防止に取り組むときは人間工学の技術が不可欠とのことです。使いにくい製品を「正しく使え」と言ったり、事故が起きたときに「想定外の使い方だ」と言ったりするのは、製造業者らの言い訳ととられかねない、とのお話がありました。
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