環境安全専門委員会が発足しました
HPVやHERAなど世界の流れに呼応して活動を展開
吉村専門委員長にその趣旨と背景を聞く 2002年CLEAN AGE191号に掲載

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日本石鹸洗剤工業会の環境保全委員会のもとに、このたび新しく「環境安全専門委員会」が設けられました。吉村専門委員長に、その趣旨と今後の活動などを聞きました。
吉村孝一 環境安全専門委員長
花王株式会社
商品安全・品質保証本部長
安全性評価研究センター所長
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いまなぜ専門委員会が…? |
洗剤の人への健康や環境に対する影響については、これまでにいろいろな問題提起がありましたが、そのうち、人に対する安全性については、1983年に当時の厚生省が第三者である学識経験者に客観的な評価を依頼して取りまとめられた「洗剤の毒性とその評価」という報告書の中で、洗剤の安全性は、通常の使用条件下において、問題とすべき点はないと結論されました。
当工業会では、提起された問題については、追試確認をするとともに、必要な課題については問題解決のための検討を行なう姿勢を貫いてきました。こうした例として、洗剤の主成分として使用されていたハードABS(分岐型アルキルベンゼンスルホン酸塩)を生分解性の良いLAS(直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩)に転換した例や、無リン洗剤の上市等をあげることができます。
しかし、われわれを取り巻く環境は少しずつですが変化してきています。たとえば、家庭内住環境の変化や洗剤のコンパクト化による製品組成や標準使用量の変化、あるいはこうした動きに伴った消費者の意識行動の変化、さらには下水道や浄化槽普及率の向上といった水環境の変化が見られます。また、あとで述べますが、世界的な動きとして化学物質の安全性を再点検し、適正管理に努めようという提案と活動もあります。
そこで、今までやってきたことでよしとするのではなく、こうした変化や動きも考慮しながら、環境問題を含む洗剤の安全性について、再度確認を行なおうというものです。この委員会の活動の特徴は、あくまで自主的な活動であることと、リスクアセスメントの視点を強化している点、また、これまでこうした視点で評価されていなかった汎用成分まで、評価を拡大させる予定であること、等です。
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世界の動きとはどんなものか…? |
ここ数年、生産量の多い既存化学物質について、安全性の確認をしようという世界的な動きがあります。現代社会ではさまざまなところで、いろいろな化学物質が多く使われています。これらの化学物質については、十分な安全性データが揃っていない、あるいは安全性データはあるものの、一定の評価基準でデータの確認がなされていないというような問題があります。こうした課題に対し、1990年、OECD(経済協力開発機構)が、高生産量化学物質(HPV:ハイ・プロダクション・ボリューム)の安全性点検プログラムを立ち上げ、各国でこの活動を推進することになりました。
この計画では、5200の化学物質の安全性を確認することになっていますが、この活動を促進するため、国際化学工業協会(ICCA)が、独自のプログラムを計画し、2004年までに1000の化学物質の安全性を確認する活動を開始しています。ICCAは、日本化学工業協会(日化協)、米国の化学工業協会(ACC)、欧州の化学工業協会(CEFIC)とで形成された国際協議会の一種です。しかし、これらの活動はいずれも遅れ気味です。というのも、ただデータを集めて整理すればよいというものではないからです。各化学物質の同一性の確認、物理化学データおよびハザードデータの収集と集められたデータの妥当性の確認、生産量および暴露量の推定等、検討すべき項目が多いのが一つの要因です。また、それらの取りまとめを担当するグループ(コンソーシアム)とスポンサー国となる政府レベルでの確認作業と最終的段階としてOECDの会議で判定のための議論を受ける必要があるため、大変な作業になるのです。HPVの対象となるのは、1000トン以上の高生産量の既存化学物質で、これらの物質の中には、たとえば、酢酸や硫酸といったようなごくありふれた物質も含まれています。
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化学物質も安全確認して使われているのでは…? |
今、話をしましたHPVのような活動をお聞きになって、なんだ、化学物質は安全性が確認されたうえで使われているのではないのか、という疑問をお持ちになったのではないかと思います。現在、世の中で使われている化学物質についていうと、まったく安全性の確認がされずに使われているものは少なく、用途に応じて何らかの安全性の確認はされていると思います。ただ、古くから使用されているものについては、急性毒性のデータ程度しかないものもあります。こうした物質の多くは、いろいろな産業分野で長い間使用されてきたなかで選ばれ残ったものですので、使用経験のなかで安全性の確認がされたものという見方もできるかもしれません。
洗剤に関していえば、洗剤の主要成分については、十分に安全性の確認がされています。では、洗剤に使用されているすべての成分、たとえばアルカリ剤(炭酸塩など)のような補助成分について、同じレベルの安全性確認がされているかというと、必ずしもそうではありません。しかし、洗剤については、丸ごとの洗剤として多くの安全性試験が行なわれていますので、これらの補助成分についても、混合物としては安全性が確認されているといえます。また、洗剤に使用されているこれらの補助成分の多くは、他の家庭用品や産業分野でも古くから汎用されているものばかりですので、こうした経験から安全性が確認されているものともいえます。
このように化学物質の安全性データの整備状況は、まちまちなのが現状ですが、今、HPVで進めようとしているのは、一定の評価基準で安全性の整備状況を確認し、不足しているものは試験を実施し、安全性の確認を行なおうというものです。これまでの使用実績だけでなく、客観的なデータとして安全性も確認しようというこの計画は、大変意義のあることだと思います。
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法規制でなく自主的にという意味は…? |
化学物質の安全性については、法律で規制されるから確認を行なうということでなく、こうした化学物質を製造または利用する会社が、自ら確認を行なうのが基本だと思います。化学物質を規制する法律に合致した製品を開発することは、それなりに大変なことですが、こうした試験に止まらず、消費者が使用する条件や環境中に排出される条件を考慮した確認作業が、各社で行なわれています。会社の規模や各社の考え方により、検討内容や方法論は異なると思いますが、このような視点で開発が進められているわけです。個別の製品については、各社でこうした活動が行なわれる訳ですが、洗剤全般の安全性とかリスク評価というような問題については、工業会の活動として検討を行なったほうが、会員会社にとっても、また、消費者の方々を含めた対社会という面でも有意義であろうと思っています。
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一方ではHERAという活動もあるが…? |
HERA(ヘラ)というのは、ヨーロッパの石鹸洗剤工業会が進めている洗剤のリスクアセスメントに関する取組みのことです。HPVは、ハザードデータの確認に主眼がおかれているのに対し、HERAではハザードの確認に留まらず、リスクアセスメントまで行なうのが特徴です。この取組みは、まさに自主的な活動であり、石洗工も米国石鹸洗剤工業会(SDA)ととともに、オブザーバとしてこの活動に参加しています。参加した理由は、石洗工でも昨年、主要界面活性剤(洗浄成分)のリスク評価を行なったばかりで、リスクアセスメントという点では共通した課題であること、今後、日本でもリスク評価を継続する予定であり、ハザードデータおよびリスク評価の考え方、手法はできる限り共有化したいと考えているからです。
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久しぶりの専門員会ですが当面は…? |
学術専門委員会は、かつて洗剤の催奇形性等の安全性について議論があった頃に設けられたことがありますが、それ以来のことです。この専門委員会は、先ほど申しあげたような背景、考え方に基づき、今後活動を続けていく予定です。
あくまで工業会の自主的な活動として、洗剤のリスク評価を中心に検討を進める予定です。この活動では、洗剤の主要成分である界面活性剤だけでなく、たとえば、蛍光増白剤とか、ゼオライト、アルカリ剤、溶剤等、各社の洗剤に共通に使われている成分まで広げて検討を行なう予定でいます。得られた成果については、学会での発表や、工業会の報告書、リリース等の形で公表していくつもりです。
当面は、PRTR法で第1種指定化学物質になった主要界面活性剤のリスク評価ついて、フォローを行なう予定です。工業会では、LAS等の主要洗浄剤については、河川中にどのくらいの量、残存しているかを調べるため、自主的に河川モニタリング調査を毎年行なっています。こうした調査はリスク評価の一環として今後も継続する予定です。
環境安全専門委員会の活動に、ご理解とご協力をお願いいたします。
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HPVとは:(High Production Volume)
生産量が年間1000トン以上と大量に生産されている化学物質
HERAとは:(Human and Environmental Risk Assessment)
ヨーロッパの石鹸洗剤工業会が中心になり、洗浄剤の環境アセスメントをしようという自主的な取り組み |
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