洗たくとその環境変化を常にみつめながら
洗たく科学専門委員会の活動
洗たく科学専門委員会 委員長
鈴 木 哲
2008年CLEAN AGE216号に掲載
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日本石鹸洗剤工業会の活動の基本となる部会には、油脂製品部会・石鹸部会・洗浄剤部会の三部会があり、洗たく科学専門委員会は、このうちの洗浄剤部会に属する専門委員会です。その歴史は古くて、1974(昭和49)年の開設以来、洗濯機と洗剤ができてからの日本家庭の洗たくという家事を、科学的にとらえながら考えていこうと、地道な活動が今日まで続けられてきました。洗浄に関するあらゆる技術的なことに関して取り組む、ということが専門委員会の使命です。 |
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洗たくを科学する基本として |
たとえば、数年前ですが当専門委員会のメンバーが中心になってまとめた、「技術資料 洗たくの科学」という小冊子があります。これをまとめた意味は、技術者とか研究者などに洗たくの技術情報を提供するためでした。
たとえば研究者のなかには、汚れ落ちを評価するときでも、人工汚染布だけしか使わないケースが多いのです。人工汚染布というのは、人工的につけた汚れで、実際の汚れとは違う、全然異なるものです。ですから、実際に着用した衣料についてくる汚れとも違うし、組成も汚れも付き方も違うから、人工汚染布だけで汚れ落ち評価をやると、現実とはかけ離れた結果も出て、誤りも生じやすい。それだけで、できるだけ多くの結論を得ようとするから、ムリな考察をしてしまう、ということが起こり得るのです。
これはあくまでも専門家向けの技術資料ですから、一般の人がみておもしろい、役立つというものではないのですが、洗浄研究をされている大学の先生などには授業で使っていただけるよう提供しています。 |
洗濯機メーカーとの情報・意見交換を通じて |
欠かせないのが、洗濯機メーカーさんとの情報交換・意見交換です。これも、ずいぶん長い間、継続してきています。それは洗濯機の全自動化が進み、洗剤のコンパクト化が進んだ頃とも符合するのですが、全自動が二槽式を追い抜いたのが90年代の前半だったと思います。
当時、洗濯機メーカーでは全自動洗濯機は在来の洗剤を想定して開発していました。そして洗剤メーカーのほうでは二槽式洗濯機を念頭において洗剤を開発していたわけです。そうなると、おのおの見ているところにズレがあって、当然ながら最初の頃は必ずしも洗濯機と洗剤の相性はよくなかったのです。お互い相性悪いからといっていがみ合っても始まりませんから、ではお互い意見交換をしましょうということになったのです。
課題は次々と出てくるもので、たとえば昨年課題として提案し論議してきたことでは、ドラム式の洗たく物が黒ずんでくること、すすぎの水が少ないということがありました。
叩き洗いで柔軟剤をよく使うようになると、それを次に洗うときにはきれいに落とさないといけないのですが、洗剤を控え目に使ってしまうと落としきれない。すすぎも水量が少ないので、きれいな水で充分にすすぎができない。ヨーロッパのドラム式はすすぎは3回が標準になっているそうですが、日本では縦型でたっぷりの水ですすぐので2回で充分だった。その2回を基準にしてドラム式に置き換えてしまうと、どうしてもすすぎの水が少ない分、すすぎの効率が悪くなり、きれいにすすぎきれないわけです。
けれども、洗濯機も高額になっていますから、一度買った洗濯機はおいそれと買い替える訳にはいかないですね。洗剤は短期間で使い切って買い替えることができるから、洗剤を改良することで問題が解決できることであれば、それはわれわれのやるべきことになるでしょう。 |
一般家庭の洗たくの実状・実態も調査 |
重要なことですが、実際に毎日洗たくという家事をしているのは家庭の一般の消費者なので、そういう人たちが、どういう意識でどんな洗濯機と洗剤の使い方をしているかを、できるだけ把握したいと考えました。それで、洗たく行動の実態調査を1991(平成3)年から開始したわけです。
洗たく環境はどんどん変わっていきますから、なるべく先を見ながらやっていく必要があります。
近年の傾向を見ても、洗たくが変わってきた背景として、まず洗濯機が大きく変わってきました。そのひとつが大型化であり、ひとつがドラム式の普及でしょう。また、洗剤のほうでは液体洗剤が増えつつあります。
普及してきたドラム式にしても、日本の家庭の洗たくの実状にあったものにしていく必要があり、そうした洗たく環境の変化に、いかにうまく対応していくか、それを今後も「科学して」いかなければならないと思っています。 |
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