地道な研究と交流により、
洗濯をとりまく疑問を解決
洗たく科学専門委員会の活動
|
洗たく科学専門委員会は、洗浄剤部会のなかの専門委員会で、洗濯技術の専門的な研究を行ない、その成果を各方面に役立てる活動をしています。山田 勲 委員長(花王株式会社 ハウスホールド研究所 上席主任研究員)にお話しを伺いました。 |
|
洗たく科学専門委員会は、洗濯の技術や効果について、科学的な視点から調査研究を行なっています。1974年に活動をはじめてから長年蓄積してきた知見は、2004年に技術資料「洗たくの科学」として発表しました。活動の成果を学会で公表したり、外部の関連団体などへも積極的に発信して、ひいては家庭で家事をする方々に、洗濯の仕組みや洗剤の正しい使い方を伝えていくことを趣旨としています。
また、5年に1度は家庭における洗濯の実態を調査して、消費者の目線から問題点をみつけて、次の研究や啓発のステップへとつなげています。
|
外部団体と交流する機会を増やしています |
外部との交流活動では、洗浄剤に関係の深い、キッチンや風呂などの住宅設備や家電の業界と、定期的な情報交換を行なっています。近年はとくに、日本電機工業会の洗濯機メーカーの技術者の方々と連携を密にし、以前は年1回だった定例会に加えて不定期の会合も開き、話し合いの機会を増やすようにしてきました。
我々は洗浄や洗剤の専門家ですが、洗濯機メーカーは機械設計が専門です。洗濯というテーマは同じでも、持っているデータや見解は必ずしも一致しませんので、普段の交流でこまめに確認することが大切です。日本にはJIS規格という基準があり、洗濯機の基本設計もそれをもとに行ないますが、付加機能については統一された基準は存在しません。各社が自由に競いながら洗濯機の機能を考え、新製品をつくるので、実際に洗剤を使って洗濯をしたときに、洗浄が効果的かどうか、水量は適切か、きちんとすすぎきれているかなど、細かくは検証してみないとわからないこともあります。検証の結果によっては、当委員会から積極的に情報を提供して改善を促していく必要も出てきます。
|
問題解決に協力しながら信頼関係を構築 |
過去の例では、2007年頃から洗濯機のふたに多く採用されるようになった新開発の樹脂素材に、液体洗剤などが付着し時間が経つとヒビ割れが起こる事例が発生しました。このときは、当委員会と、日本電機工業会の洗濯機メーカーと樹脂メーカーの三者で集まって協議できたので、樹脂選びの判断基準となった耐洗剤用樹脂の耐性試験方法を改良したほうがよいとわかりました。洗剤などの容器には樹脂が使われていますので、化学業界の一員としてのアドバイスができました。試験では、洗濯機や洗剤が実際に使われる状況を正しく想定することが重要で、それが問題を未然に防ぐことにつながります。また、問題の結末だけをみるのではなく、どのくらいの頻度や濃度で問題が起こるかといった要素とハザードを掛け合わせたリスクの検証をしておかないと、正しい判断ができない可能性があります。業界によって専門性や考え方が違っても、お互いに知らない情報を提供し合うことで理解を深めることができます。より踏みこんだ話し合いができるように、今後も信頼関係を築いていければと思います。
|
消費者の意識を探り、疑問の解決をはかっています |
消費者の方々の洗濯や洗剤に対する疑問点を解消するには、家庭ごとにどのように洗たくが行なわれ、洗剤はどのくらいの量を使うのかなどの情報収集がかかせません。洗濯実態調査は時間と労力がかかりますが、意義のある活動です。
前回2010年の調査では、従来の縦型全自動洗濯機と粉末洗剤のほかに、近年ユーザーが増加しているドラム式洗濯機と液体洗剤についてもはじめて詳細なデータをとりました。近年共通して言えるのは、洗濯機が節水化・大型化し、使う側の節水・節電への関心も高まっていることです。結果的に、1回の洗たくでたくさんの衣類を洗おうとする“詰め込み洗い”の傾向が強まり、意図的に調節しないと、洗剤量や水量が極端に不足してしまうかもしれません。これは今後、消費者啓発が必要な部分です。
昨年は、ドラム式洗濯機ユーザーに対する追加調査を実施し、洗剤使用量の実態とその意識などについて解析をつづけてきました。この結果は、6月にホームページや広報紙でお伝えする予定です。ぜひ多くの皆さんに関心を寄せていただき、効果的な洗たくを行なってもらえるようにしたいと思います。また、そのための情報提供方法についても、他の委員会と相談しながら、工夫していこうと考えています。
|
|