◆各社から法務の専門家が集まる組織
当委員会は1993年に法務委員会としてスタートしましたが、2003年の改組で、現在の法務・労働委員会に名称が改められました。企業経営に不可欠な法律に関する情報収集や、時代によって変わる労務管理上の課題を話し合うための組織です。参加は任意ですが、現在、当工業会正会員の半数を超える13社から法務担当者が集まっています。
活動の基本は年4回の定例委員会です。毎回事前に、3、4件の事例研究テーマを選んでおき、持ち回りの発表者が各社にアンケートをとって、自社の状況を含め詳しく調査したうえで発表する形式を続けてきました。このため、発表する側はかなり勉強してまとめてきますし、聞く側もそれに応えて、つっこんだ話し合いができているとの印象を持っています。
◆時勢を反映する労務上の課題について検討
話し合いの中身は時勢を反映したものが多く、たとえばかつては労使の関係改善が主要なテーマのひとつでしたが、今は従業員の働き方や職場環境に関する話題に重点が移ってきています。近年の議題からいくつか具体例をあげてみましょう。
まず、従業員の心の健康、いわゆるメンタルヘルスの不調を訴える人が急増している問題があります。これに対応するかたちで、労働安全衛生法が2014年に改正され、企業が従業員のストレスチェックを行なうことなどが新たに義務化されました。当委員会では、数年前からメンタルヘルスについて情報を収集し、過去に行なわれた裁判の判例に学んだり、各社の対応事例を共有してきました。関連して、職場で起こり得るさまざまなハラスメントの防止策についても、意見を交わしてきました。
少子高齢化やライフスタイルの多様化に合わせた企業の施策も、増えてきています。そのひとつ、女性従業員の子育て支援策に関する発表が最近ありました。あらかじめアンケートをとった結果、当委員会に所属するほとんどの企業に、育児休業法などの法律を上回る支援制度があるということがわかりました。育児と仕事を両立しやすい職場づくりという点では、かなり意識が高いようです。ただ、議論をすすめていくと、子育て支援に比べて介護支援はまだまだで、法律上の施策も十分ではないとの指摘も出され、今後検討すべき課題との認識で一致しました。
◆各社の経験を共有することで、実地に役立てる
大きなテーマがある一方で、現場の細かい疑問をとりあげることもあります。たとえば、収入印紙を貼るべきものと貼らなくてよいものの線引きが難しい、各社どうしているのかといった話です。企業が収入印紙にかける費用は少なくありませんし、印紙税は複雑で、事例によっては判断に迷うことがあるのです。当委員会で議題にすれば、一社では経験しきれないようなさまざまなケースが各社から報告され、実地ですぐに役立つ情報を交換することができます。
また、最近は、企業のコンプライアンスを司る法務部門に限らず、法律知識を全社的に教育することが重要といわれたり、ソーシャルメディアを利用する従業員の行動規範を策定する必要性なども増してきています。とくにこうした課題は、企業規模や業態によっても対処方法や進捗に差が出ますが、他社の例を参考にして、社内規定の策定や改善に役立てているという声はよく聞いています。新たな課題としては、2016年からマイナンバー制度も利用開始となりますので、今後の実務への影響を見守りながら、対応状況を話し合っていく予定です。
◆これからも陰ながら会員社をバックアップ
当工業会では、業界の自主基準を積極的に設けるなど、他の常設委員会においても各社が協力を惜しまず活動しています。法務・労働のような実務的で細かい部分はそれぞれにまかせればよいというのではなく、当委員会でオープンな議論をすることで、陰ながら会員社のバックアップをしていきたいものです。現在のような地道な事例研究や情報交換は、何も問題がないときはその価値が見えにくいものかもしれません。しかし、何か法律関連の問題が発生した際には機能すること、そのための準備をしておくことも、当委員会の意義であると考えています。