◆グローバルネットワークの形成
近年の委員会活動は、本当にグローバルベースで行なわれています。まず、近隣のアジア諸国はもちろんのこと、欧米の工業会とも深いかかわりを持つようになりました。
この背景には、21世紀に入り爆発的に普及したインターネットの影響があり、情報交換のスピードが早くなったことや、電話会議が日常的になったことがあげられます。ここ10年で、より多くの国と地域にまたがる国際的なネットワークが構築されて、欧米諸国との距離は一気に縮まりました。
石鹸洗剤業界の国際活動というと、あまりピンとこないかもしれませんが、業界をとりまくさまざまな課題について各国と情報交換をしたり、国際会議の場で協議を行なったりしています。当工業会は、アジア地域では
AOSDAC(アジア・オセアニア石鹸洗剤工業会会議)の主要メンバーであると同時に、2002年に設立されたICPAIE(国際洗浄剤工業会情報ネットワーク)のメンバーとして欧米諸国とともに活動を展開しています。
これまで、南米のペルー、シンガポール、日本、米国で開催されたAPECの会議に参加しましたし、ICPAIEの関連では、クロアチア、ポルトガル、オーストリア、デンマークでの会議にも参加しました。通常、あまり馴染みのない地域まで含めて、文字通りグローバルに活動領域は広がっています。
また、実際に現地の会議に行っての話し合いだけでなく、特にアメリカ、ヨーロッパや、オーストラリアの姉妹団体とは、電話会議やメールでのやりとりなど、緊密に連携しています。

◆欧米を中心に進む化学物質管理への取り組み
当委員会の活動で、最も重要な位置を占めているのが、“化学物質管理と安全性”に関するものです。洗浄剤は、使用後、排水として環境中に出ていきます。したがって、洗浄剤業界では原料や製品の安全性を一番に考えなければなりません。
今、欧米地域を中心に、化学物質管理に関するさまざまなプロジェクトが進行していて、EUが2008年から始めたREACH規則などはその代表格です。REACH規制には、洗浄剤原料も規制対象として含まれますが、実は、欧州の洗剤業界はREACH の運用がはじまるよりも5年以上前から、独自に「洗剤業界とそのサプライヤー」からなる安全性評価の仕組みを立ち上げ(HERA)、洗剤に用いられる化学物質の安全性データ整備を行なっていました。この活動には、当工業会も当初から参画し、情報共有を行なっています。また、米国石鹸洗剤工業会(ACI)は、洗剤の主原料である界面活性剤について、OECD–HPV–INITIATIVE(OECDによる高生産量化学物質の安全性情報整備活動)を進めてきました。これについても、日本における安全性試験結果の提供、洗剤類の曝露情報の提供などを通して、積極的に国際的な安全性情報整備に貢献しています。
こうした欧米地域での業界活動の足場となるICPAIEには、現在、日本を含めて、世界の国と地域から7団体が参加しています。また、ICPAIEの実働部隊として、企業が加わる組織として設置されたINCPAでは、国際会議でその活動内容や成果の発表を行ないながら、組織の国際的な認知度と機動力の向上にも努めているところです。
◆GHSへの取り組みとAOSDAC
ほかにも、主な活動にGHS勧告への対応があります。GHSとは、国によって違う化学物質の危険性や有害性に関する分類や表示を、国際的に統一するシステムで、2003年に国連から発出されました。当工業会では昨年から、家庭用の台所用洗剤や漂白剤などにGHS表示を導入し始めています。これは、世界で初めての取り組みです。そのため、実施に向けては多方面で調整が必要となり、当工業会が作成したGHS実施ガイダンスをもとに、当委員会で2005年頃からAOSDAC加盟国へ情報提供を始めました。その後APECでの実施ガイダンスの紹介やプリンシプルぺーパーの承認のため、約6年間、調整役として動きました。この活動は、国際的に整合性のとれたGHSの仕組みをつくるうえで、重要な意味を持つものだったと考えられます。
また、設立当初のAOSDACは、ネットワーキング自体が目的というところもありましたが、現在はGHSのように、国や地域を超えた共通の課題について積極的に情報交換を行なうなど、より実質的な会議になっています。昨年は、世界第2位の人口を有するインドが加入したことで注目を集め、2013年の第9回AOSDACも、インドでの開催が決定しています。
◆今後重要性を増してくるテーマと課題
国際社会における、化学物質管理に関する取り組みは、1992年に国連がブラジルのリオで開催した「地球環境サミット」を起点とするものです。そのとき採択された「アジェンダ21」によって、環境保護と開発を両立させるためには、サステナビリティ(持続可能な開発)の考え方がなくてはならないものだと、言われるようにもなりました。
この世界的な潮流を受けて、洗浄剤業界でも、環境問題やエネルギーセーブ、植物由来原料などに関する意見交換が、かなり活発に行なわれています。日本の洗浄剤業界は、
環境問題や省資源に関し、他の国々の業界より進んでおり、
当工業会が1998年から始めた河川環境のモニタリングや、詰め替え・付け替え製品導入によるプラスチック容器使用量の削減などの取り組み、近年普及し始めた超濃縮型洗濯用洗剤の紹介などは、海外でも高い評価を受けています。
そして今年は、6月に『リオ+20(国連 持続可能な開発会議)』、9月に『国際化学物質管理会議(ICCM3)』と、重要な国際会議が控えています。『リオ+20』は、地球環境サミットから20年後の節目にあたる会合です。これら会議での議決事項は、国際委員会の活動の方向性にも影響を与えるものですから、注目していく必要があります。
グローバルネットワークの確立によって、海外姉妹団体との情報交換もスムーズになり、内容も濃いものになってきました。
同時に、実質的な討議の中で、消費者の習慣・ニーズの違い、それぞれの国・地域における業界を取り囲む状況の違いなども明らかになってきています。科学的な根拠やこれまでの経験を踏まえた日本の立場を明確に伝え、それを反映できる最適な枠組みづくりを国際的な協調の中で進めていくこと、また、その国際的な合意に基づいた規制やルールが国内に入ってくる際には、消費者やステークホルダーに対して適切な情報提供を行なっていくことが、ますます重要になってきます。
国際委員会の今後としては、日本石鹸洗剤工業会の常設委員会として、他部会・委員会とさらに緊密に協働してこれらの課題に貢献していければと思っています。